妻に先立たれたおじいさん×シニア猫ののんびりライフ。なにげない毎日が愛おしくなる猫コミックエッセイ『ねことじいちゃん』

マンガ

更新日:2023/11/25

ねことじいちゃん
ねことじいちゃん』(ねこまき(ミューズワーク)/KADOKAWA)

 ほのぼのとした空気感に癒される猫コミックエッセイは数多くあるが、その中でも作品から漂うほんわかさに心がほころぶのが、『ねことじいちゃん』(ねこまき(ミューズワーク)/KADOKAWA)。

 本作の主人公は、妻に先立たれたおじいさんと猫のタマ。自由気ままなタマに振り回されながら人生を謳歌する日常が愛おしい。

 75歳の大吉じいさんは、元小学校の先生。猫と高齢者が多い島で暮らしており、島民からは「先生」と呼ばれて、親しまれている。一方、もうひとりの主人公である猫のタマも10歳とシニア。ふたりは巡りゆく季節の中で、さまざまな楽しみを見つけつつ、のんびり老いていく。

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 作者ねこまき(ミューズワーク)氏は、ふたりのほのぼのした日常を豊かな色彩と温かみのあるイラストで表現。そのイラストから読者は日本が誇る四季の美しさを再確認し、作中に登場するおいしそうな料理の香りを感じ取りもすることだろう。

 大吉じいさんは、タマのしもべだ。タマの機嫌に振り回されながら、愛猫に尽くす。

ねことじいちゃん

 季節のイベントも、タマと一緒にお祝いをする。お正月には猫用おやつをお年玉として献上することも。

ねことじいちゃん

ねことじいちゃん

 タマのほうも大吉じいさんのことをしもべだと思ってはいるが、その一方で、放っておけない大切な存在でもあると感じているよう。

ねことじいちゃん

ねことじいちゃん

ねことじいちゃん

 互いが互いに寄り添い合う、ほんわかとしたふたりの姿はとても微笑ましい。こうした何気ない幸せを感じる日常に、世の猫飼いは自分と愛猫の暮らしを重ね合わせ、つい頬が緩んでしまうのだ。

 個人的に特にほっこりさせられたのは、6巻の番外編に収録されている、タマの昔のエピソードだ。親猫とはぐれ、死にかけていたところを大吉じいさんの奥さんに拾われたタマは、日に日にやんちゃに。夫婦は、好奇心が旺盛で予想外の行動を見せるタマに翻弄させられた。

ねことじいちゃん

 ふたりでこんなに笑ったのは何年ぶりか…。そう感じた大吉じいさんらは、「これからは私たちがあなたのお母さん」と、タマに語りかける。そんな温かい夫婦の姿に触れると、どれほどタマがこの家で愛されて育てられてきたのかがうかがえ、胸の奥がじーんとした。

 また、そうした過去を大切な思い出として振り返り、タマが我が家に来てくれたことを改めて感謝する大吉じいさんの姿にも感涙。「これからも楽しくやろう」とタマに語りかける大吉じいさんの言葉にさらに涙がこぼれた。

 本作には大吉じいさんの少年時代のエピソードがレトロなタッチで描かれてもいるため、昭和という時代を生き抜いてきた人は、懐かしさがこみ上げてくることだろう。時折、描かれる大吉じいさんと息子との交流にも涙腺を刺激されるので、そちらもぜひチェックしてほしい。

 何気ない日常の穏やかさを丁寧に描いている本作は、1秒前がすぐ過去になってしまう“今”の過ごし方や自身の老い方を振り返るきっかけも授けてくれる。このふたりがこれからも末永く、健康で平和な日々を送れますように…。フィクションだと分かっていても、そう願わずにはいられない。

文=古川諭香