草間彌生は水玉の幻覚に悩まされていた? アンディー・ウォーホルにも大きな影響を与えた現代美術作家の苦難と成功

文芸・カルチャー

更新日:2023/12/12

常識やぶりの天才たちが作った 美術道
常識やぶりの天才たちが作った 美術道』(パピヨン本田/KADOKAWA)

 2017年、バスキアの絵がZOZOの前澤友作氏によって123億円で落札された。2018年には、オークションでバンクシーの「少女と風船」が落札された瞬間に、シュレッダーにかけられるというワケが分からない出来事が起こり、ニュースでも話題となった。現代作家といえば、彼らを思い浮かべる人もいるだろう。他にも、アンディ・ウォーホルや岡本太郎などの名も聞くことが多い。現代美術とは、現代美術作家とは、なんなのだろうか? と疑問に思う人もいるはず。現代美術に対して“?”を持つ人に読んでもらいたい本が、『常識やぶりの天才たちが作った 美術道』(パピヨン本田/KADOKAWA)だ。

 本書は、現代美術の始まりであるコンセプチュアルアートから、ポップアート、前衛美術、ソーシャルアートと紹介していく。現代美術というと奇抜な作品に目が向きがちだが、この本は作品の解説ではなく美術作家に焦点が置かれているところが特徴だ。著者は、SNSで美術ネタを描き大評判の現代美術家パピヨン本田氏であり、著者の視点と解釈で、23人の美術作家をマンガと文章でひもといていく。

 マンガの解説ページでは、美術館の館長に扮す愛犬ムサシと著者が展示作品ツアーを巡っていくが、作家に対する突っ込みが冴え渡りクスッとしながら楽しく読める。作家が何を考え、何を表現した(しない)のかから、反戦や差別などのハードな内容も、軽快な文章で深掘りされるため分かりやすい。用語解説も入り、現代美術の入門書としても重宝しそうだ。美術作家たちが、なぜその表現に至ったかが初心者にも親切に書かれている。

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「アート・エンターテイメント」という言葉が出てくるが、彼らの人生そのものがエンターテインメントであるかのようだ。作家同士が影響を受け合っていることも分かり驚いた。例えば、草間彌生。草間の作品が水玉だらけであるのは有名だが、実は水玉の幻覚に悩まされていて、それを打破するため、芸術表現に水玉を用いたそうだ。そんな草間は、のちの巨匠たちに多大な影響を与えている。

“ウォーホルは同じものをパターンで刷ったけど草間のほうが先にやったと言われている”
“ポップアートの巨匠クレスオルデン・バーグの出世作のアイデア元も草間と言われている”

 この時、力のある彼らの作品の方が評価されたために、さらに草間は気を病んでしまった。成功まで苦難の道を歩むが、くじけずに作品を作り続け、時には選ばれなかったヴェネツィア・ヴィエンナーレの会場外での大規模ゲリラ展示という驚きの行動をした。そして、今では知らない人はいない唯一無二の存在となっている。

常識をぶっ壊す作家たちの歩んだ美術道は続くのか!?

 読みすすめるうちに、時代の波の中を上手に泳いだり、反発したりしながら美術の道を切り拓いていく作家の内側を垣間見、著者と共に彼らと対話しているかのような気持ちになる。生きるためには稼がなければならず、時には賢くコミュニケーションをはかり、作品を高値で売る才能も必要だろう。常識やぶりで奇天烈な作家たちではあるが、作品が人間らしい悩みや努力を乗り越えて作られた汗と涙の結晶だということも感じられる。しかし、読み終わってスッキリ分かったつもりになっても、振り返るとまだまだ分からないことがいっぱいでてきて、そこがまた面白くて美術沼にハマっていってしまう。そして、マンガの中に「美術の道はチャレンジの連続!」とあるように、諦めない勇気も貰える。ワクワクしながら美術という深淵の入り口を覗ける1冊だ。

文=山上乃々

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