青春ラブコメ×シリアスバトルの衝撃マンガ。地球を自分たちの手で壊すために、邪魔な魔法使いを倒していく!?

マンガ

PR公開日:2023/12/13

惑星のさみだれ
惑星のさみだれ』(水上悟志/少年画報社)

 お小遣いを握りしめて書店に走り、初めて買った漫画のジャンルは少年バトルものだ。確か2人の主人公が己の正義のために戦い、強くなって最後はラスボスを倒すという王道のシナリオではあったものの、幼いころの僕にとってバトル以外の要素を含まないただまっすぐ戦うだけのストーリーが、わかりやすく心地よかった。何も考えずに爽快感を得られたからだろう。

 ただちょっと(だいぶ)年を重ねて大人になると、バトル要素だけでは物足りなくなってしまった。「もっと青春、シリアス、ラブコメ的な要素を……!」なんてわがまま放題の僕に衝撃を与えたのは『惑星のさみだれ』(水上悟志/少年画報社)だ。本書は2010年に最終巻が発売され完結を迎えたが、12年の時を経た2022年にアニメ化された。本記事では、上述した要素がぜんぶ盛り込まれた衝撃的作品の紹介をさせていただきたい。

 主人公は雨宮夕日、内向的な大学生。彼はある朝、トカゲの姿をしたノイ=クレザント卿に「仲間と協力して、地球を滅ぼそうとしている魔法使いから姫と地球を守ってほしい」と依頼される。唐突かつ理解不能な状況に混乱しながらも、冷静に断る夕日。だが、そんな悠長にしていられる時間はなかった。魔法使いが使役する敵が彼とノイを襲う。逃げることしかできず絶体絶命のピンチの夕日。そんな状況の彼を助けたのは、姫と名乗る女の子で夕日の隣人・朝日奈さみだれ。かくして夕日は、恐ろしいほどのスピードでさみだれと地球を魔法使いの手から守る任務を課せられてしまう……。

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 ここまで読むとRPGゲームのような王道ストーリーをイメージするが、本書はそんな枠にはまる作品ではない。その理由は姫の企みにある。彼女は作中で「魔法使いに地球は壊させない、地球を壊すのは自分だ」と語るのだ。しかも夕日もその企みに賛同してしまう……。つまり、2人は地球を自分たちの手で壊すために、邪魔な魔法使いを倒そうとするのだ。もちろん、2巻以降に出てくる仲間の騎士たちは、さみだれと夕日の企みを知らない。この時点ですでにいい意味でぶっとんだストーリーであることがわかっていただけたはずだ。

 ただ、そんなさみだれと夕日にも人の心はある。話が進んでいくごとに2人の仲は深まり、いつしか恋心も芽生えていく。仲間の騎士たちも同様、関わりが強くなるごとに男女として意識していく。中でもネズミの騎士・日下部とカマキリの騎士・花子の恋模様は、まさに「アオハル」という言葉が似合う。ラブコメ漫画に負けないくらいキュンとする場面ばかりなので、ぜひ最後まで見届けてほしい。

 本書の魅力は、もう1つある。それはシリアスなバトルシーンだ。魔法使いが使役する敵とは、騎士たちがそれぞれ身に付けている指輪から放たれる「掌握領域」を使って戦う。能力は形を自在に変えられるものや炎や氷を作り出すものまでさまざま。ただ戦闘を行うのは生身の人間、当然戦うごとに怪我を負うしそれ以上の不幸に見舞われることも……。戦いのシーンはきっとページをめくるのがとてもつらく怖くなるだろう。

 なぜさみだれは「地球は自分で壊す」と語るのか? 夕日がさみだれに賛同した真意は? 地球が壊れたら2人の恋はどうなるの? そもそもなぜ夕日が騎士に選ばれた? 考察したいことは、話が進むごとにどんどん増えていく。正直、10巻でここまで濃い内容を味わえて、考察が楽しくなる漫画はあまりないのではないかと思うほどだった。作者・水上悟志先生の「バトル漫画を自分ならこう描く」という思いが伝わる、情熱的な作品だ。

文=トヤカン

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