「流れ星をつかまえたい子ども」を笑わないアフリカの大人たち。アフリカの小さな村から教わる“心に余裕をもつ”方法

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更新日:2024/1/18

今日、誰のために生きる?アフリカの小さな村が教えてくれた幸せがずっと続く30の物語
今日、誰のために生きる?アフリカの小さな村が教えてくれた幸せがずっと続く30の物語』(ひすいこうたろう・SHOGEN/廣済堂出版)

 毎日毎日、仕事や家事、生きるために必要な食事や睡眠にすら追われている私たち。「ああ、ご飯の準備をしなきゃ」「もう寝る時間だ」「締め切りに間に合わない…!」慌ただしい毎日の生活のなかで、土に触れたり、空を見上げたり、虫の鳴き声に耳を傾ける時間を最後に過ごしたのはいつだろうか。

今日、誰のために生きる?アフリカの小さな村が教えてくれた幸せがずっと続く30の物語』(ひすいこうたろう・SHOGEN/廣済堂出版)は、現代の日本人が忘れてしまった「すぐそこにある幸せ」の存在を再確認させてくれる一冊だ。

タンザニアの小さな村から教わる「幸せとは何か」

 この本は2部構成で、前半ではSHOGEN氏がタンザニアの小さな村で出会う人たちとの交流のなかで教えてもらった「幸せとは何か」「どうしたら幸せになれるのか」についてエピソードとともにまとめられている。後半では、幸せがずっと続く村のエッセンスを、現代の日本人がどう生活に落とし込んでいけばいいのかを、ひすいこうたろう氏がワーク形式で解説している。

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 SHOGEN氏は、日本で出会ったティンガティンガというペンキ画アートに衝撃を受け、仕事やこれまでの生活を全て手放し、親の反対も押し切ってペンキ画アートの本場であるアフリカのタンザニアへ渡る。その後ブンジュ村という小さな村で画を描きながら生活することになるのだが、心に余裕がなく、何かに追われるように見えるSHOGEN氏に対し、村で出会う人は例えばこんなことを言う。

“人と話すときは、その人を抱きしめるようにして話すんだよ。” ―P42
“一番最初に大切にしなければいけないのは、自分だよ。” ―P72
“そこに喜びはあるの?” ―P92

 自分の気持ちを置き去りにしたままの現代人にとっては、言われてドキっとするような言葉ばかりだ。日々をこなすことにいっぱいになっていると、自分が本当は何をしたかったのか、今なぜこんなに頑張っているのかを見失ってしまう。早く一人前の画家になりたい一心で自分に課題を課し、根詰めて画を描いていたSHOGEN氏だが、村ですれ違う人みんなから「心に余裕を持ってね」と言われ続け、時には村会議の議題にされるほど心配されることで、この村で何よりも大切にされている「空を見上げる心の余裕」が生まれるようになる。そして、何のために画を描くのか、自分の魂と向き合うことで、自分の力を信じられるようになる。一瞬一瞬を味わい、感じること。目の前のことに心を傾けることで、自分らしく生きることができるようになっていく。

「今日、誰のために生きる?」を自分に問いかけよう

 自分の心を満たさない限り、本当の意味で誰かの力にはなれない。当たり前のことなのに、どうしたら自分の心を満たせるのか分からなくなってしまった人が今の日本にはたくさんいる。

 ブンジュ村では、電気は1日のうち数時間しか使えないし、水も1時間歩いて汲みに行かなければならないという。日本の方がはるかに恵まれた環境で生活をしているはずなのに、日本人の心はブンジュ村よりもずっと貧しい。

 例えば子どもに「流れ星をつかまえに行きたい」と言われたら、ブンジュ村の大人たちみんなで毎晩出かけるそうだ。日本人ならどうだろう。つかまえることができない理由を並べて無駄と決めつけ、行動に移そうとしないのではないだろうか。

 本当の幸せは無駄やしょうもないことのなかにある。「空を見上げる心の余裕」「無駄を楽しむ精神」を持つことで、ロマンや夢に思いを馳せ、幸せを感じられるということを、ブンジュ村の人たちは教えてくれる。日本人は効率を重視して無駄を排除しようとするが、時間があることは何よりの豊かさで、心に余裕がある人たちの間に争いは起こらないのだ。

 本の後半では、ブンジュ村に伝わる幸せの考え方のルーツについて書かれている。ブンジュ村に伝わるこれらの考え方は、実は日本人から教わったものだという。かつて日本人は、世界中で一番自然から愛されていた人種で、小さな虫の音にまで耳を傾けることができたそうだ。全ての自然に感謝して生きる日本人の生き方が、今の日本には必要ではないだろうか。

 ブンジュ村の挨拶である「今日、誰のために生きる?」という言葉。私たちは、誰のために生きているだろう。自分のために生きていると認識している人はどれほどいるだろう。この本を読んで自分と向き合う時間を作ることで、忙しさに埋もれてしまった「自分の本当の気持ち」に気づくことができそうだ。

 忙しい毎日を送る人こそ、まずは落ち着いて深呼吸。私たちが失ってしまった「心のゆとり」(幸せを感じる心)を取り戻そう。

文=鈴木麻理奈

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