草彅剛主演でドラマ化決定! 自分以外の家族全員耳が聞こえないコーダが挑む、ろう者が起こしたとされる殺人事件の謎とは?

文芸・カルチャー

更新日:2024/1/18

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士
デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(丸山正樹/文藝春秋)

 手話通訳士という職業を知っているだろうか。ニュースなどでたまに見かけたこともあるだろう。その手話通訳士をテーマにした『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(丸山正樹/文藝春秋)が2023年12月、草彅剛主演でドラマ化が決定した。

 主人公・荒井尚人は、当人は耳が聞こえる「聴者」だが、手話の技能を活かし、手話通訳士としての道を歩き始めた。仕事が軌道に乗り始めたある日、法廷でのろう者の通訳を依頼される。ろう者が起こしたとされる殺人事件。それは荒井自身がかつて関わった、過去のある事件ともつながりはじめ……。

 主人公は、家族が自分以外全員、耳が聞こえない。アカデミー賞を獲得した映画のタイトルにも使われた「コーダ」(Children of Deaf Adults)である。

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マイノリティーの叫びとマジョリティーの無意識の傲慢

 マイノリティーと聞くと、近年は性的マイノリティーの印象が強いかもしれない。だが、その名の通り、少数派を指すマイノリティーには、聴覚障害者も含まれる。ミステリーであると同時に、手話者同士の対立や聴者との間に横たわる断絶など、マイノリティーが直面する問題、困難が全編にわたって描かれている。

 一方、コーダという、当人もマイノリティーである主人公の苦悩も同時に描かれている。恥ずかしながら想像したことがなかった世界で、マジョリティーの傲慢さを無意識に持つ自分を自覚した。

 序盤、手話通訳士として仕事を始めた主人公は、ろう者の老人・益岡を差別する男に遭遇する。差別用語を堂々と吐き、

「大丈夫だよ、どうせ聴こえてないから」

 と男は連れの家族にのたまう。それに対し。荒井は猛烈な勢いで手を動かし、言いたいことを手話で「言う」。そして

「大丈夫ですよ、どうせ何を言ってるか分かってやしませんから」

 と、大声で益岡に伝える。

 この時の手話は汚い表現の限りを尽くしたもので、荒井の罵詈雑言の手話は父親には伝わらず、最後益岡に叫んだ言葉はろう者の益岡には伝わっていない。痛快であり、印象的なシーンだ。

過去と現在が交錯し、やがて未来に

 ろう者と聴者にスポットが当たる作品だが、巧みなストーリーテリングで進むミステリーは、物語として単純にとても面白い。

 法廷の手話通訳士というサブタイトルではあれども、実は主人公が法廷に立つ姿はほとんど描かれない。ろう者が容疑者となった殺人事件を、どう解決に導いていくのか。荒井自身が抱える過去を巻き込みながら、事件解決のクライマックスまで畳み掛ける。

映像化が楽しみ

 近年、バーチャルリアリティが現実に近づく一方、SNSの過去の発言などが取り沙汰されることも増えてきた。現代を生きる我々は、過去をすべて捨て、全くの別人になり切ることはとても難しい。過去から逃げず、今と向き合い積み重ねていくことで初めて未来は手に入る。作中の人々は拭いきれない過去を背負っている。それぞれの選択をぜひ見届けてほしい。

 手話は非常にビジュアライズされた言語であり、逆によく小説で表現したなと驚く。映像になったらどうなるのか。非常に楽しみな作品である。

文=宇野なおみ

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