ジャンプルーキーで100万PV達成の『ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』がノベライズ化! 原作漫画では語られなかったバックストーリーにも注目

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/12/22

ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん
ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』(ぎばちゃん:原作・イラスト、綾坂キョウ:著/集英社)

 誰しも一度は思わぬ事故や失敗で傷を負ったことがあるだろう。身体の傷は癒えても、心の傷はすぐには癒えない。普段は気にせずともふと傷跡を目にして苦い思い出が蘇ったり、時間が経ってから古傷が痛み出したりするものだ。そんな心の痛みを和らげる一番の薬は、誰かの優しさだったりする。

ボロボロのエルフさんを幸せにする薬売りさん』(ぎばちゃん:原作・イラスト、綾坂キョウ:著/集英社)は、漫画家である「ぎばちゃん」がX(旧Twitter)や集英社主催の漫画投稿サイト「ジャンプルーキー!」に投稿した連載漫画が原作だ。薬売りの青年と傷ついたエルフが出会い、心と身体を癒やしながら種族の垣根を乗り越えて愛を育んでいく異世界ファンタジー。SNS で話題になりKindleで電子書籍化、ジャンプルーキー上では現時点で100万PVを達成している人気作品で、本作はそのノベライズ版となる。

 物語は片田舎で暮らす主人公の薬売りの男が、傷ついたエルフの少女を街の質屋から引き取るところからはじまる。彼女は奴隷として主から受けた虐待の傷で瀕死に陥っていた。その痛ましい姿に同情した薬売りの男は、彼女を治療し、故郷へ帰すことを決意する。

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 人間以外の魔族やエルフ、ドワーフへの人種差別が根強い世界で、エルフへの差別を持たずに同情する人間の男。ここで主人公が他の人間とは違う生き方をしてきたという背景がおぼろげに読み取れる。

 ちなみに主人公の薬売りの男は、作中でも「薬売りさん」と呼ばれるばかりで最後の最後まで名前が明かされない。ここでも“男”とだけ明記しよう。

 山里にある自分の家へと戻った男は、悲惨な体験を受けたショックから記憶を失ったエルフの少女に“復活”という意味の“リズレ”という名前を与えて治療をはじめる。

 片目を潰され、耳をそがれ、歯を抜かれ、四肢は腐り、食事も与えられずやせ細ったリズレはたびたび痛みや高熱にうなされる。そのたびに男は薬草を取りに森へ入り、薬の素材となる魔物を狩り、力の限りに献身的な治療を施す。その甲斐もあってリズレは会話ができるまでに意識を取り戻す。

 だが、手足の腐敗が進み、薬だけの治療に限界を感じた男は、リズレを連れて古くからの友人を尋ねる決意をする。大金を払って魔族の闇医者に手術を依頼し、ドワーフの鍛造師に義肢の制作を頼み込み、リズレは新しい手足を得て命を取り留める。

 ここから次第に魔族や亜人種と親しい薬売りの男の壮絶な半生が明かされていくとともに世界観が広がって、二人の関係が急展開を迎えていく。

 理不尽な虐待によって傷つき感情を失ったリズレが笑顔や感情を取り戻していく健気さが涙を誘い、リズレを助けることで過去の後悔から救われていく男の姿にも胸を打たれ、ページをめくるごとに心が洗われて清々しい気持ちになる。

 ノベライズ版では、これまでの漫画版でモノローグとして部分的にしか語られなかったバックストーリーを掘り下げている点にも着目だ。すでに漫画版を読んであらすじを知っている読者でもより深く、新しい視点で作品を味わえるようになっているので是非とも読んでこの感動を体験してほしい。

 傷跡とは、人生の痕跡でもある。怪我や痛みに耐え、過去に打ち勝った証だ。自分もリズレや男のように傷を乗り越え、たくましく生きていきたい。

文=愛咲優詩

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