綿矢りさが描く“北京在住の日本人妻”の日々。急速に発展する都市を生活者の目線で描く『パッキパキ北京』をマンガでご紹介!

文芸・カルチャー

PR更新日:2023/12/22

パッキパキ北京
パッキパキ北京』(綿矢りさ/集英社)

 作家・綿矢りささんの新刊は『パッキパキ北京』。「夫の仕事の関係で北京にたまたま住むことになった日本人妻」という、仕事でも旅行でもない独特の「生活者」の目線で、急速に発展する一方で極めて人間臭い(というか、いろんな匂いがまじった)中国という国の「多面性」を、まるでジェットコースターのようなスピード感で見せてくれるエンタメ小説だ。中国の勢いにも負けない強気すぎるキャラ・主人公の菖蒲(アヤメ)のぶっとんだ行動もとにかく痛快で、面白さにはまる人が現在続出中だ。

 物語は菖蒲が、コロナ禍の北京に単身赴任中だった夫から「そろそろ一緒に暮らそう」と乞われ、愛犬ペイペイを携えてしぶしぶ中国に渡るところから始まる。「気をつけてね」の言葉の裏に「ひどい目にあうに違いない」とどこか相手の不幸を楽しむようなマウント女どもに別れをつげ、人生エンジョイ派の菖蒲は中国ライフを楽しみ尽くすべく前のめりで出発。到着早々の過酷なコロナ隔離期間も青島のリゾートで難なくクリアし、晴れて北京に入る頃には政府の規制も緩んでいるというバッチリさ加減。とはいえまだまだ臆する人も多い中(ちなみに3年強中国にいる夫は適応障害を起こしている)、菖蒲はショッピングに食事に散策に日々精力的に動き回る。そんな菖蒲に刺激されて夫も少しずつ外に出ていこうとするものの、やっぱり彼女ほどにはのりきれず、ついにある決断を彼女に迫るーー。

 実はこの物語、綿矢さんが2022年の冬から半年ほど家族の都合で北京に住んでいた経験がベースになっているとのこと。ご本人は菖蒲のような激しい生活をされていたわけではないが、どっこいそこはさすが作家の「観察力」。コロナ禍の影響は見え隠れするものの、それでも次々に新しいエリアが開発され、高層ビルや巨大なショッピングモールが誕生し、珍奇なものから超高級品までさまざまな美食に溢れ、圧倒的な人の数に対応する交通事情は若干カオスで、路地裏にいけば古いものが残り…貪欲なまでの菖蒲の行動力と、食欲を誘ってくれる北京の街の景色は、とにかくダイナミックで面白い。市井の人々のバイタリティがリアルに伝わって来て、結果的に「中国」という国の持つ強烈なエネルギーを実感することになる。

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 そして何よりそんなダイナミックな背景の中で、菖蒲と夫との微妙な関係の温度感が絶妙に描かれるのもツボ。現在『女神のついた嘘』を集英社マンガMeeで連載中の愛内あいる氏は、そのあたりにハマったとのことで早速X(元Twitter)に投稿している

パッキパキ北京

パッキパキ北京

パッキパキ北京

パッキパキ北京

 寒さでマスクの中の鼻毛が凍ろうが(ちなみにタイトルのパッキパキは北京の寒さを表現している)常にアクティブな菖蒲だが、愛内さんも描いているように彼女は彼女なりに異文化での出会いや景色を楽しみながら、ふと自分の人生の今後を考えるようになる。これからの自分はどう生きたいか。「日本人」の常識的な考えや小さな優越感を軽々超えて、自分ファーストで「今ココ」という現世を生きる菖蒲の強さと激しさはちょっと気持ちがいい。これって、何が起きるかわからない時代のサバイブ術のひとつなのかも。

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