阿部サダヲ×優香でドラマ放送予定『広重ぶるう』。借金のために春画も描いた「東海道五十三次」で有名な歌川広重と妻の物語

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更新日:2024/2/23

広重ぶるう
広重ぶるう』(梶よう子/新潮社)

「東海道五十三次」や「名所江戸百景」という浮世絵を知っているだろうか。もし、その名を知らなくても、検索して出てくる画像を見れば、知っているという人は多いだろう。歌川広重は、後に「広重ブルー」といわれる「ベロ藍」を使いこなした浮世絵師だ。プルシアンブルーというドイツのベルリンで作られた化学染料は、ベルリン藍、ベロ藍とも言われ、吸い込まれるような美しい藍で、広重を魅了した。

広重ぶるう』(梶よう子/新潮社)は、歌川広重の人生を描いた1冊だ。広重は、火消同心の家に生まれ家督を継ぎ、その傍らで浮世絵を描く。美人画や役者絵は全くだめで、なかなか芽が出ない彼が名所絵で認められていき、名所絵の大家となる話である。

 浮世絵の主流は、役者絵や美人画で、名所絵は絵師としては一段劣るものとされている。役者絵や美人画で泣かず飛ばずだった広重はベロ藍を知り、江戸の空を描くために「おれは化けるなら、名所で行く」と名所絵の道を進みはじめるのだ。彼のまわりには、妻の加代、後妻のお安、弟子たち、版元など多くの人がいて、彼の成功は支えてくれた沢山の人がいたからだとも言える。妻の加代は、貧乏な時でも広重の飲食代などの金の無心に否を唱えずに対応し、自分の持ち物を質に入れて借金をしてまで彼を支えた。加代が亡くなり、後妻に入ったお安は、広重と酒を酌み交わし、静かな加代とは逆の開けっぴろげな性格で彼と連れそった。

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 広重は、ふらりといなくなっては風景を描き、朝湯と酒が大好きな、どこか憎めない人柄で描かれている。江戸の人らしく短気で口は悪いが、優しく真面目、女性関係も妻一筋である。例えば、妹が後妻に入るために困るからとおしつけてきた姪を娘に貰ったり、妹の夫の借金を肩代わりしたりする。借金が返済できないと姪を売られてしまうため、描きたくもなく上手くもない春画を描くことになり、他の師匠に教えを乞いにまで行くという良い人っぷりである。

「描きたい物を描くために、東海道を描いてやらぁ」とはじめた「東海道五十三次」で成功を収める

 広重は、まわってきた東海道を描くチャンスをものにして、「東海道五十三次」で売れっ子絵師への仲間入りを果たす時には、

“風景は何も奇観、美観である必要はない。何気ない風景の中にこそ、おれは見るべきものがあると思っている”

 と、弟子に語る。「東海道五十三次」では、ただの風景ではなく、「画を眼にした者が旅の気分を味わえる、己があたかもそこにいるような気分にさせる」と描いていく。しかし、彼が本当に描きたいのは、江戸の町。

“おれはこの江戸の町を余すことなくてめえの筆で描き起こしてぇんだ。おれの育ったこの江戸の風景をな。この町の上に広がる高く、澄んだ、曇りのねえ青い空をな”

 晩年にようやく念願かなって「名所江戸百景」を描けるようになる。江戸を愛し名所絵を描き続ける、何かを成し遂げる人の想いの強さには胸を打たれるものがある。そして、「名所江戸百景」は、「江戸で生まれ、江戸で育った」広重だからこそ、四季や天候での見え方の違いや人々の暮らしの営みを絵に落とし込むことができ、大ヒットとなるのだ。

「ベロ藍を活かせるのは、景色なんだ。海、川、なにより空だ」広重の江戸と絵への想いが詰まった1冊はドラマへ

 後世にまで名を残す偉大な1人の絵師が何を考え、何を目指したのか。本書を読めば、絵の道を志しひたむきに生きた人間として広重が映り、彼に親しみさえ感じることだろう。賑やかな江戸の町が目の前に広がっているような錯覚さえ覚える。

 また、2024年3月後半に、阿部サダヲと優香が共演し、歌川広重とその妻を描くドラマとして放送予定だ。広重の生き様と、彼が暮らし描いた江戸の町を実写で堪能したい。

文=山上乃々

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