芥川・大江賞作家・長嶋有と実力派の女性漫画家6名がタッグを組んでおくる珠玉のアンソロジー『いろんな私が本当の私』

マンガ

PR公開日:2024/1/19

いろんな私が本当の私
いろんな私が本当の私』(双葉社)

 音楽、映画、本あらゆる膨大なコンテンツの電子配信が可能となり、スマートフォン一つでそれらに気軽にアクセスできるようになった今、それでもあえてCD、DVD、紙の本を買って手元に置いておきたい作品がある。コンテンツの作者のファンであったり、思い入れのある作品だったりと理由はそれぞれあると思うが、じっくり何度も味わいたい作品であるという点は共通しているのではないだろうか。今回ご紹介する『いろんな私が本当の私』も紙の本で手元に置いておきたくなるそんな1冊だ。

『いろんな私が本当の私』は芥川賞、大江賞受賞作家、長嶋有 (ナガシマユウ)先生の6編の小説が実力派の女性漫画家6名(米代恭先生、三本阪奈先生、丹羽庭先生、コナリミサト 先生、鶴谷香央理先生、雁須磨子先生)によって漫画化され収録されている。2012年に発行された『長嶋有漫画化計画』から10年以上の時を経て企画された待望の漫画化アンソロジー第2弾だ。作品毎に長嶋有先生自身による解説や担当漫画家とのエピソードも収録されており原作ファンもマンガ好きも両方がうれしい1冊となっている。

 本の冒頭を飾るのは2023年にドラマ化された人気作『往生際の意味を知れ!』の米代恭先生が描く「三十歳」。不倫がバレてしまい、ピアノ教師を辞めたアラサーの秋子。バイト先のパチンコ屋で人なつっこいバンドマン、安藤と出会い音楽をきっかけに距離を縮めていく。

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 喫煙場所の屋上、ホテル街の近くの小さなライブハウス、主人公の心情を映し出しているかのようなタイミングで変化する天気。なにげなく描かれているコマのひとつひとつが細やかに情景を表現しており、作品の世界観と秋子の感情の動きをリアルなものとして読者へ伝える。ラストまで読んだら是非もう一度じっくり読み返してほしい。初読では目を止めなかった秋子の表情の変化、安藤から漏れ出る小さな違和感などあらたな発見があるかもしれない。

 6編の作品は主人公が女性であるという以外、発表された年代もテーマもそれぞれ違うのだが、全編に共通するのはなんども読み返したくなるという点だ。廃版になったレコード、地上波の番組を録画したVHS、2011年の頃のTwitter、セガサターンなど作中の時代を象徴するようなアイテムが登場し、読んでいると主人公の年齢の頃の自分や、舞台となっている年代の当時の懐かしい記憶や感情が呼び起こされる。それぞれ書き手の解釈と表現によってじっくりと時間をかけて読みたくなるような漫画へと再構築されており、映像化とはまた一味違う漫画と小説のコラボならではの味わいで読者を楽しませてくれる。

 あなたは本作を読んでどの作品のどのシーンが心に残るだろうか。原作と読み比べる、お気に入りの作品を何度も読み返す、時間を置いてまた読んでみる。是非いろんな楽しみ方で心ゆくまで味わってほしい。

執筆:ネゴト / よね

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