認知症になった飼い犬との思い出。ペットロスから抜け出すための亡き愛犬との記録… すべての愛犬家に捧ぐ、老いゆく犬と暮らした日々を描く感動エピソード集

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/26

犬がそばにいてくれたから
犬がそばにいてくれたから』(三浦健太/主婦の友社)

 どうして犬の寿命はこんなにも短いのだろう。愛犬が年老いていくのを目の当たりにすれば、誰だってそう思わずにはいられないだろう。犬の寿命はおよそ15歳。私たち人間に比べて、歳をとるのが早く、一緒に過ごせる時間はあっという間に過ぎてしまう。「ずっと一緒にいたいのに」「もっとあのコのためにしてやれたことがあったのかもしれない」……。愛犬に残された時間をどう過せばいいか悩んでいる人がいれば、愛犬を亡くし、ペットロスに苦しめられている人もいるに違いない。

 そんな愛犬家たちに読んでほしい本がある。それは『犬がそばにいてくれたから』(三浦健太/主婦の友社)。 老いゆく犬と暮らした日々を描く、実話をもとにした感動ストーリー集だ。本書では、ドッグライフカウンセラー歴30年の著者が出会った愛犬と飼い主の9つの物語が紹介されている。「犬の老い・死」というのは、愛犬家ならば、できれば考えたくないテーマに違いない。だが、恐る恐るページをめくれば、そこにある希望に驚かされる。この本には、犬を愛し、犬と暮らす人にとって、知っておきたい物語が詰まっている。自分のためにも、そして、大切なあのコのためにも、この本と出会えて良かったと思わされるに違いない。

 たとえば、第1話で語られるのは、茶色いぬいぐるみのような雑種・タロの物語。元々穏やかな性格で、イタズラの甘噛みさえしたことのなかったタロは、ある時、突然、牙をむき出しにして噛みついてくるようになった。尋常ではない変化に病院に連れていくと、告げられたのは、認知症との診断。次の日、飼い主は、厚手の革手袋を購入し、タロが噛みつきたい時に思いっきり噛めるように準備した。だが、やがてタロは立ち上がることもできなくなってしまう。噛みつく力は次第に弱くなり、ほとんどくわえているだけ。飼い主はせめてタロの歯の圧を感じていたいと、革手袋を外すようになった。そして、最期の時が近づいた時、タロは……。

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 犬がつないでくれた縁。老犬のために買った歩行補助器やドギーカート。深刻なペットロスから抜け出すために飼い主が書き連ねた亡き愛犬の記録……。この本に収められている一つひとつのエピソードは、そのどれもが他人事とは思えず、涙なしには読むことができない。「そうか、犬も認知症になるのか」「愛犬の身体が不自由になってもできることはあるんだ」「あのコとの思い出は忘れなくていいんだ」……。この本は読めば読むほど、たくさんの学びがある。そして、一番実感させられるのは、どんなに愛犬が年老いたとしても、飼い主との絆は決して消えることはないということ。たとえ愛犬が認知症になったとしても、愛犬は飼い主と過ごした日々を決して忘れることはない。犬の寿命は変えられないが、一度築いた飼い主との絆は、ずっと心に残り続けている。9編のエピソードに触れていると、そんな奇跡を信じずにはいられない。

 大切なのは、「どれだけ生きたか」ではなく、「どう生きるか」だ。「犬の老い」や「死」について描かれた物語を読めば、今犬と暮らしている人や、これから犬との暮らしが始まるという人は、愛犬との時間をいかに楽しむか、愛犬をいかに幸せにしてあげるか、もっともっと考えねばと思わされるだろう。また、愛犬を亡くし、「もっと何かできたのではないか」という後悔を抱えている人にとっても、この本は救いになるはず。愛犬との確かな絆は私たちの心の中にたくさんの思い出を残してくれる。何だか背中を押されたような、許されたような気持ちにさせられるだろう。

 犬を愛してやまないならば、目を背けず、一度、愛犬の老いと死について思いを馳せてみてはいかがだろうか。この本は、どこまでも私たちを泣かせてくる。だけれども、これほど心を癒し、勇気づけてくれる本は他にはないだろう。「老い」や「死」について考えることは、「生きる」ことを考えることだ。読めば、「どう生きるか」を前向きに考えられる。すべての愛犬家にオススメしたい1冊だ。

文=アサトーミナミ

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