探偵の助手は未来予知ができる女子高生!? 「怪盗レッド」シリーズ著者による、謎が謎を呼ぶ新感覚ミステリー!

文芸・カルチャー

PR更新日:2024/2/8

助手が予知できると、探偵が忙しい
助手が予知できると、探偵が忙しい』(秋木真/文藝春秋)

 未来が予知できたらどんなにいいだろう。これから起こることが分かれば対策し放題。嫌なことだってスルリとかわすことができるのではないだろうか。だが、自分の意思に関わらず、未来が断片的に視えるだけだとしたら……。自分や他の人に危険が及ぶと分かっていても、どう備えていいか分からない。そもそも、予知を信じてくれる人はいるのだろうか。たとえほんの少しだけ未来が視えたとしても、それは結構厄介なことかもしれない。

助手が予知できると、探偵が忙しい』(秋木真/文藝春秋)を読むと、ついそんなことを想像してしまう。この作品は、児童文学・冒険小説の「怪盗レッド」シリーズ(KADOKAWA)で知られる秋木真氏による一般文芸作品。「探偵」×「未来予知」という意外な組み合わせがクセになるミステリーだ。

 主人公は探偵・貝瀬歩。ある日、閑古鳥が鳴く彼の探偵事務所を女子高生の桐野柚葉が訪ねてくる。彼女は「2日後に殺される」と自分には予知能力があることを明かすのだが、歩はそれを信じようとはしない。だが、歩の脳裏には探偵事務所の前の所長、亡き叔父の言葉がよぎる。「困っているヤツを放っておくなよ、歩」「探偵は困っている人を助けるものだ」と口癖のように言っていた叔父のことを思い出した歩は、柚葉からの依頼を引き受けることになる。

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 柚葉が視る予知は極めて断片的だ。予知を視るタイミングは決まっておらず、頭が痛くなったかと思ったら、突然映像が視えるという。視るのは知っている人のことだけ。今回視たのは、自分が何者かに追われ、逃げ切れたと思ったら、腹をナイフで刺されるというものらしい。——それだけでは単なる悪夢にしか思えないし、調べようがない。だが、「最近身の回りで不審なことは起きていないか」と問うと、柚葉の家の前には差出人不明の花束が置かれていたことがあったという。歩はその花束を手がかりに調査を進めていく。

「未来予知ができれば、それだけで事件は解決」かと思えば、断片的な未来予知がさらなる謎を呼ぶのが面白い。よくよく考えてみると柚葉の視た未来予知にはどこか違和感がある。どうして柚葉は命を狙われなければならないのか。犯人は誰なのか。聞き込みをしたり、柚葉の家の周りを調べてみたり、罠をはってみたり。歩は明晰な頭脳で、その謎を解き明かしていく。まさかそんな事実が隠されていたとは。柚葉だけでなく読者も、歩が披露する推理の鮮やかさには、あっと息を飲むだろう。そして、未来予知が本物であることが明らかになった時、柚葉は……。

 やる気がなさそうに見えて、実は切れ者の歩と、お人よしでどこか危なっかしい柚葉。柚葉は、自分の予知を信じてくれる歩に次第に信頼を寄せていき、歩は柚葉に振り回されていく。そんなふたりのやりとりがなんと微笑ましいことか。探偵と未来予知能力者なんて相容れないものと思っていたが、彼らの相性は抜群。柚葉の事件以外にも、歩のもとには次から次へとおかしな依頼が舞い込み、ふたりはそれらに立ち向かうことになる。

 歩のもとに来る依頼はどこか不思議で雲を掴むようなものばかり。それなのに、未来予知まで加わるから謎はさらに深まる。かと思えば、スリルあふれる展開が訪れ、最後には思いもよらない真相が明かされる。その過程はなんとも爽快だ。ふたりはこれからどんな謎に立ち向かうのか。「探偵」と「未来予知」の掛け合わせはあまりにも新鮮で、この世界にずっと浸っていたいとさえ思わされる。あなたもこの新感覚ミステリーを是非とも体験してほしい。

文=アサトーミナミ

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