「和菓子のアン」シリーズ著者の最新作!ただおやつを食べるだけのゆる部活「おやつ部」を舞台にした日常ミステリー

文芸・カルチャー

PR公開日:2024/3/8

うまいダッツ
うまいダッツ』(坂木司/文藝春秋)

「何となく口寂しいから」とスナックを口に放り込むように、何となく物語で心を満たしたい時がある。それもサクッと読みやすく、甘酸っぱさやほろ苦さまで、いろんな味わいを感じられる本がいい。そんな気分にピッタリなのが『うまいダッツ』(坂木司/文藝春秋)。累計100万部突破の「和菓子のアン」シリーズで知られる、坂木司氏による“おやつ”ミステリー小説だ。

 舞台は、とある高校の「おやつ部」。「おやつ部」とは何か。それは、「すべきことはなにも決まっていない」「ただ、おやつを食べるだけ」というゆるーい部活だ。正式にはこの部活は、「喫茶部」なのだが、主人公のアラタをはじめ、男女ふたりずつの喫茶部1年生は、ジャンクなスナック菓子が大好き。先輩たちは、昭和レトロな喫茶店を巡ったり、コーヒーを研究したりしているが、4人の活動はそれぞれが好きなお菓子を分け合うくらいのため「おやつ部」と呼ばれているのだ。そんなある日、「おやつ部」の面々は不思議な噂を耳にする。「うまい棒一本で、世界の秘密がわかるらしい」。何でも、ホームレスっぽい見た目のとあるおじさんに、うまい棒を一本渡すと知りたいことを何でもひとつだけ教えてくれるのだという。その噂は本当なのか。彼らはそのおじさんを探すことになるのだが……。

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 この本には「おやつ部」が日常の謎に挑む物語が4編収められているが、なんともゆるい空気がクセになる。「おやつ部」のメンバーはいつだって、気張らずに等身大。空気を読みがちなアラタと、逆に空気の読めないコウ、声優に推しがいるオタク女子・タキタと、男子たちよりも背が高く、どう見ても体育会系なセラ。4人の関係が何だか尊いのだ。なんだかんだお互いを大切にしているのが伝わってくるし、時にそこには甘酸っぱい感情も見え隠れする。……ああ、私も「おやつ部」に入りたい! 高校時代に戻って、ああだこうだ言い合いながら、友達とお菓子を食べたい! コロナ禍を経たからだろうか。「友達同士で、おやつを食べる」という、ただそれだけの光景がますます輝いて見える。

 どうしてこんなにも「おやつ部」をはじめ、この物語に登場する人たちの姿は生き生きとしているのだろう。それは、彼らが「好き」を大切にしているからではないかと思う。「おやつ部」の面々は、お菓子をとことん愛している。うまい棒にキャベツ太郎、チロルチョコに明治の板チョコ、ばかうけ、ブルボン、マリー・ビスケット……。身近なお菓子を心から楽しむ姿には、見ているこちらまで明るい気持ちにさせられる。それに、彼らは実はオカルトオタクだったり、鉄道オタクだったり、アニメや声優のオタクだったりする。「おやつ部」にある探し物を頼むおばあちゃんは「自分の好きなものしか置かないようにしているの」と北欧風インテリアに囲まれて生活しているし、喫茶部の先輩には純喫茶オタクや、スタバを愛し、店舗限定メニューや各店舗の内装まで把握している人もいる。何が好きかどうか、そこには貴賎などない。好きなものにとことん打ち込む。そのことほど素晴らしいものはないのだということをこの物語は思い出させてくれる。

 たった一口味わうだけでも、胸の内に幸せが広がっていく。ほかの坂木氏の作品と同様、“おやつ”に関する豆知識を味わえるのも嬉しい。時に甘く、時にほろ苦い、とびきり美味しいこの物語を、ぜひあなたもご賞味あれ!

文=アサトーミナミ

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