なにわ育ちの国際線CAが教える! ムチャな要求をクレームに発展させない上手な立ち回り方

暮らし

公開日:2024/3/30

 カナダ10年目の国際線CA・Ryucrew(リュークルー)氏。長距離フライト、お客様対応、謎の訓練、海外生活、時差ボケ、運命の出逢い、英会話、異文化交流……etc。知られざるフライトの裏側や自身の体験をまとめた初の著書を上梓しました。座右の銘 “どこに行っても自分らしく”に込めたメッセージを綴ります。

※本稿は、『国際線外資系CAが伝えたい自由へ飛び立つ翼の育て方 当機は“自分らしい生き方”へのノンストップ直行便です』(Ryucrew / KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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言い返せずに悔しい思いをした新人時代の理不尽な出来事

 上司や先輩から理不尽に叱られた経験のある人はいらっしゃるでしょうか。

「なんで?」と思ったこと、私は何度かあります。

 これは、日本のLCCで働いていたときのことです。その便には4人のフライトアテンダントが乗務して、機内の前方と後方に、2名ずつに分かれて仕事をしていました。私は後方を担当していたのですが、前方を担当していたクルーの人が、割と大きなミスをしてしまいました。私は機内の後方にいたので、現場を目撃しておらず、後になってミスが起こったことを知ったため、何も対応することができませんでした。

 フライトから戻ってきた後は、オフィスに全員で集まって、デブリーフィング(※1)を行います。そこで、機内で起こったミスの話になり、当事者のフライトアテンダントが「なんでそんなことになったんだ」と、厳しく問い詰められていました。私はその状況を見ていませんし、何が起きたのかもわかっていなかったので、黙ってその場にいたところ、急に「あんた、なんで『俺は関係ない』みたいな顔してんねん」と怒鳴られてしまいました。いや、ホンマは大阪弁ちゃいましたけどね。

 そんな感じで急に矛先が私に向いたので、ビックリして「ええ~っ」という感じでした。別にそっぽを向いていたわけでも、めんどくさそうな顔をしているつもりもなかったのですが、あまりに急な出来事で、その場ではもちろん平謝りすることしかできず……。「それなら、常にどんな顔しとったらええねん」「もっとわかりやすく、申し訳なさそうな顔しなアカンかったんかな?」と新卒の私にとって社会人の難しさを痛感した瞬間でもありした。

 今の会社でも少しトラウマになった出来事がありました。それは入社して、研修やOJT(※2)もすべて終わった後、半年間はプロベーション(※3)になります。めったにないのですが、その間に重大なミスをしたり、仕事ぶりや人柄に関してすこぶる評判が悪かったりすると、会社はその社員を解雇することができます。そしてその半年間のプロベーションを無事クリアできれば、晴れて正社員になれるのです。

 その頃に、カナダ人の背の高い50代くらいの女性ベテランクルーと、もう1人と、私の3人で乗務することがあり、私がパーサー(※4)ポジションでした。プロベーションの期間中はパーサーポジションを経験しなければならず、機内アナウンスなども担います。私は緊張していましたし、英語のアクセントにも自信がなく、アナウンスを読むのに、ところどころ詰まってしまいました。

 それが気に食わなかったのか、ベテランクルーに「さっきのアナウンスやけど、何言ってるか、全然わからんかったわ」と言われてしまいました。私が反省しながらとっさに「日本から来てまだ1年ちょっとで……。数回しかパーサーポジションやったことないのもあって、緊張してました。すみません」と返すと、「ふーん。あっそう」というような反応でした。それ以降、どことなくチクチクと、威圧的な感じで私に接してきました。

 例えば、次便に向けたブリーフィング(※5)で、キャプテン(機長)も含めてみんなが集まっているときに、私がとても単純なことを発言したのですが、彼女は一言、「Pardon?(は? 何て言ったの?)」。聞こえているはずですし、単純な言葉だからわかるはずなのですが、「何言ってるかわからへん」というリアクションをされてしまいました。しかし私の言ったことは、パイロットや他のクルーには正確に伝わっていて、そのうちのひとりが彼女に対して「いやいや、彼は今こう言うたやん」と私が言ったことを繰り返して言ってくれたところ、とても白々しく「あぁ、そうやって言ってたん」と。そのときは悲しいのと悔しいのとで、家に帰ってオカンに電話で話しながら悔し泣きをしてしまいました。

 もしかすると、その時の私の感受性が強すぎたのかもしれませんし、彼女も私を傷つける意図でそういう対応を私にしたわけではなかったのかもしれません。けれども、なんせその当時の私はこのフライトで起きたことで自分に自信をなくし、しばらくの間、英語恐怖症になってしまいました(今はもちろん昔話として話せるほどに、傷は癒えていますが)。

 今なら絶対、本人に直接「そんな言い方することないやん? 今の言い方、めちゃ傷ついたで」と伝えると思いますし、社内には何かあったときに相談できるホットラインもあるのですが、当時はプロベーションでしたし、言いくるめられるのではないかとか、むしろ「この新人はクルーとして大丈夫か」「あの英語ではわからないと思う」などと報告されるほうが怖いと思って、結局泣き寝入りしました。実際には、そんなことで解雇されることはないのですけどね。

 このときの一件は私にとってトラウマになりました。ただでさえ英語のアナウンスは憂鬱だったのが、余計に苦手になってしまいました。ペアリングにそのベテランクルーの名前があったら絶対にドロップ(※6)して、一緒に乗務することを避けていましたね。ここだけの話、彼女が退職したと聞いたときには、正直ホッとしました。

※1 業務後に行う報告会、反省会。業務前に行うものはブリーフィングという。

※2 on the job trainingの略。客室乗務員の場合、実際のフライトで行う機上訓練のこと。

※3  新入りの乗務員が一定期間、訓練や評価を受け、正式な乗務員としての能力を確認される試用期間のこと。

※4 フライトアテンダントを統率する責任者。チーフパーサーともいう。

※5 パイロットや乗務員が飛行前に行う、飛行計画や安全手順に関する会議や説明のこと。

※6 予定から勤務を取り消すこと。人数不足が発生しないように、他の従業員とシフトを交換する必要がある。

1分超過でも即アウト!とても厳しいフライトアテンダントの労働時間

 フライトアテンダントの仕事は、実はとても細かく法律が絡んでいます。なかでも厳しく定められているのが労働時間です。航空法(※7)で、1分でも超えるとアウト。それは北米に限った話ではなく、日本でも同様です。

 また、勤務終了から次のフライトまでの間は必ず最低10時間の休憩を取らなければなりません。例えば乗務便が遅延して、次のフライトが朝の9時のときに、その間が10時間を少しでも切ってしまうような場合には、翌朝のフライトを遅らせるか、違うクルーが代わりに乗務しなければならないのです。

 カナダでは、冬の間は遅延が当たり前のように生じます。雪がすごく降るので、ディアイシング(※8)といって雪や氷を取り除く作業に時間がかかります。ディアイシングをしている間にもまた雪が積もって、もう1回しなければならないといったイレギュラーで遅延が重なることがあるのです。カナダほぼ全土で降雪しますから、国内線は大体乱れるといっても過言ではありません(実はバンクーバーはあまり雪は降らず、冬の場合は冷たい雨が続きます)。

 遅延が重なると、既にお客様が飛行機に搭乗した状態でしばらく待った後、ようやく出発できることになったとしても、「さあ行くぞ」と扉を閉めて滑走路に向かったところで離陸する飛行機が待機しているため、滑走路の手前でさらに1時間や1時間半くらい待つことも普通にあります。

 そうすると、渡航先に到着する時間を計算したときに、クルーのデューティータイム(※9)がルール内には確実に収まらないということで、そのフライト自体がキャンセルになることもあります。さんざん待たされた末に飛行機が滑走路に向かって動き出し、ようやく出発すると思ったら、再びゲートに戻っていくので、お客様も「えっ?」「なんで?」という顔をされます。

 その場合には、空港でスタンバイしていたフライトアテンダントと乗務を交代した後に出発するか、その便自体をいったんキャンセルにし、ルール上のミニマムレスト(※10)を挟んだ10時間後に、クルーも飛行機ももう一度セットアップして、お客様を乗せて出発することもあります。

 お客様にしてみれば、その後の予定を変更せざるを得ない状況になるわけですし、迷惑極まりないことだと思います。けれども、それは別にクルーが疲れているがゆえのわがままではなく、法律で決まっているからだということを、どうかご理解くださいませ。

 飛行機の大きさやドア数に応じて、乗務するフライトアテンダントの人数も定められています。スタンバイ業務のところでもお話ししましたが、フライトアテンダントの人数が1人でも少ないと、お客様を機内にご案内することができません。時間や人数など、数字に対しては本当に厳密なルールがいくつも存在しています。

 ですから、クルーにも「会社のために、ここは頑張ろう」「多少時間がオーバーしても大丈夫」という感覚はありません。とてもシビアにとらええていて、1分でも時間をオーバーしたら割り切ります。既にお客様が乗っていて、あとは離陸を待つだけであっても、お客様に迷惑がかかることは重々承知の上で、「それでも、これはルール。航空法や会社の契約書で決まっているので」というスタンスです。目をつぶることはしないのです。

 私はどちらかというと、「この状態でキャンセルしたら、絶対に修羅場やん」と考えると、「もうええやん、行ってしまおう」と気持ち的には思うのですが、実際には法律的に行けないのですよね。

※7 航空業界に関する法律や規制のこと。航空機の運航や安全、航空会社の規制、航空旅客の権利など、航空産業に関するあらゆる規定を含む。

※8 安全に飛行する為に飛行機の翼に積もった雪を除去し、さらに翼の凍結を抑える作業のこと。

※9 業務時間のこと。機内サービスや安全確認、乗客への応対など、任務を遂行するための時間を指す。

※10 ステイ先での最低の休息時間を指す。一般的には最低でも10時間の休憩を挟む必要があることが多い。

カナダのなかでは比較的雪が少ないバンクーバーの冬
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