2008年05月号 『新世界より』(上・下)貴志祐介

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

新世界より (上)

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:貴志祐介 価格:2,052円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『新世界より』(上・下)

貴志祐介

●あらすじ●

1000年後の日本。機械文明は消滅、新種の生物が闊歩する世界。人類は「呪力」と呼ばれる念動力を操り、小さな共同体で生活していた。豊かな自然に抱かれた安住の地、だがそれは、いつわりの平和でしかなかった。町と外界を隔てる「八丁標」、繰り返し説かれる「悪鬼」「業魔」の存在、呪力に目覚めないと「ネコダマシ」に消されるという噂、そして消える子供たち。一見のどかな世界で彼らは徹底的に管理されていた。「わたし」渡辺早季たちは、「ミノシロモドキ」と出会ったことで、この世界が内包する真実を知る。それは、人類の血塗られた歴史を知ることでもあった。決死の冒険に身を投じる少女の成長物語でありながら、我々人間の命の業を眼前に突きつけるSF超巨編。

きし・ゆうすけ●1959年、大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業。96年『十三番目の人格・・ISOLA』が第3回日本ホラー小説大賞長編賞佳作に選ばれる。翌年『黒い家』で同大賞を受賞。他作品に、『硝子のハンマー』『青の炎』など。

講談社 各1995円
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

貪るように夢中で読んだ
夢の中にも侵食してくる程に

夢に見る程の面白さであった。先日お会いした某出版社の女性は「08年のBEST10に入るであろう」と言い切り、今年はまだ数カ月しか経っていないというのに賛同した僕は、この本がいかに素晴らしいかを彼女と熱く語り合った。そのとき彼女が言ったのだ。「読み終わった後、夢に見た」と。驚いた。そう、僕も夢に見たのだ。めくるめく冒険譚に興奮し徹夜で読み終えた後、仕事へ行く前の僅かな仮眠の中で、僕はこの物語の登場人物の一人となってバケネズミと戦い、悪鬼の恐怖に打ち震えた。すごい! こんな本はめったにない。すっかり物語に囚われ侵食されてしまった。ハリー・ポッターを超える稀代の傑作ファンタジーが、遂にこの国から誕生した。

横里 隆 本誌編集長。今号より本誌のリニューアルを行いました! 新連載に新デザイン。ぜひお楽しみください

自分の想像力が試される
SF冒険ホラー超大作

頭をフル回転させながら一気に読んだ。著者の構築した世界観を自分なりにイメージしようとしたが、初めはなかなか苦戦。1000年後の社会のしくみ、教訓めいたおとぎ話、多種多様の奇怪な生物、その生態と役割。バケネズミの存在、そして人間を「神」たらんとする呪力……。しかし、前半に提示されるこれらのカードは中盤以降うねり始める怒涛のストーリーの中でしっかりと意味を発揮してくる。そうなると、背中を押されるがごとくページが進む。切なさと驚きと恐怖。さまざまな感情のジェットコースターに乗せられて出口まで連れてこられた。これほど細部にまで著者のこだわりと情熱を感じた作品はそうそうない。ああもっとゆっくり読みたかった。

稲子美砂 『蒼井優PHOTOBOOK回転テーブルはむつかしい。』読めば、あなたもきっとかき氷にハマリます

著者の想像力に感服!
未来への福音書の完成だ

子供たちは何のために呪力養成学校に通わされているのか。バケネズミは敵か味方か? 物語は謎だらけで始まる。周到に張り巡らされた伏線。これらが終盤にかけてきっちり解決されるのでミステリー的に爽快だ。能力者対一般人という、超能力ものの王道パターンではあるが、人類の血塗られた歴史といった悲劇的大テーマを扱いながらも、子供たちの目線で希望を描くという新しい試みがなされている。物語中盤、禁止区域に入り込み、子供たちがカヌーから見た星々のなんと美しいこと! それは流血への旅の始まりであったのだが、読了後もそのイメージが頭の中に残り続けた。それは著者の祈りにも近い、子供たちに託された希望だったのだろうか。

岸本亜紀 綾辻行人の新シリーズ『深泥丘奇談』オススメです。こちらも「著者の想像力に感服」作品です

歴史は繰り返す。
書物がそのことを知らしめる

この物語は、「早季が書いた手記」という設定。舞台は遠い未来の日本、その平和な社会では、歴史は説かれない。過去の記録は抹消され、人は�現在�を素直に受け止めて暮らす。だがそこにミノシロモドキという書物が出現し、早季たちは過去を知る。現在に至る�歴史�を見出し、なぜそうなったのか疑問を持ってしまう。そこから、文字通り激動の、新たな歴史が始まったのだ。だからこそ、早季は書物に自分たちの歴史を刻む。過去を伝え、歴史は繰り返すことを知らせるために。それゆえ、いずれ抹消しようとする者が現れることを明記して。それはあらゆる本の使命であり宿命である。この物語は、映画でも芝居でもなく、本でなければならないのだ。

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起きても起きても終わらない
すごい怖い夢をみたような

最初から最後までずっとドキドキだったからびっくりでした。キョンシーに追いかけられてるみたいなドキドキと、触れる世界のほとんどが自分にとっては新世界だった思春期のドキドキ。両方のドキドキがあって、説明だけだと、は?って思うような設定とかも、そんなこと思うヒマもなく、ずっとおもしろいので、苦手そうと思ってる人もぜひ!

飯田久美子 佐藤優さんとさとう珠緒さんの異色対談連載が新しく始まりました。お楽しみに!

こんなに分厚い上下巻なのに
一気に連続2回読みました

前半は和風ハリポタ的冒険譚。しかし早季たちがミノシロモドキによって、ある「知識」を得てから物語は一変、子供時代は突然終わりを迎える。瞬とのあまりにも悲しい別れの場面では号泣し、そこから先はページを繰る手を止められなかった。1000年後の彼らの物語に自分を重ね、いま我々がいる世界のことを思わずにはいられなかった。

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すきものにはたまらない
生き物たちのサーガ

新世界に生きる奇妙な生き物たちの、事細やかな設定に思わず笑みをこぼしてしまう。ハダカデバネズミ柄のネックストラップをいつも身につけている私は、バケネズミの活躍(?)に心躍らされた。生き物が好きな人にはまらない作品だろう。生き物を観察すると、その強い生命力に感動し、人は弱い存在なのだと思わされるのだ。がんばれ人間!

似田貝大介 6月刊行予定の怪談専門誌『幽』9号は、山の怪談を特集します。夏に向けて幽ブックスも盛り沢山です!

個々の知性と野生が
未来の先に残したもの

世界の終わりも始まりも、私は知らない。だからこそこの物語を、エンターテインメントとして楽しむことができた。ただ、最後に心を強く突かれたとしたら、それは�1000年前の旧世界�にいる自分の姿。人は、日々何かに還りながらも再生するのだとしたら–。私は未来に何を紡いでいけるのだろうかと、本を閉じてゆっくり想像してみた。

重信裕加 �本屋さん�のページが新装開店。今後は地方取材にも伺います。個人的には沖縄あたりから希望!

ランナーズ・ハイって
こんな感じなんだろうか

それは、上巻の後半に近づくあたりから訪れた。次々と迫り来る横禍に、まともに息もつけない。それなのに、止まることができなくなって。気づけば、美しくなどない、むしろ目を背けていたいはずの世界を、圧倒的な高揚感に包まれ完走していた。……何よりも�長距離�が苦手な私が? ノンストップで? 何ともキケンな小説なのであった。

奈良葉子 本谷さんの『乱暴と待機』が早くも増刷決定! 書店で見かけた際は、ぜひお手に取ってみてください

集団心理に隠れてしまう疑問
認識することの強さ

自分を構築している世界に異物が混じると、日常のささいなことでも不安になる。物語では、大人が管理する世界に不信を抱いた少女が困難を乗り越え、最後には自分も大人になっていく。大人になった彼女の物語が読みたい。交わらないで一人立つことのできた少女は、大人になってもそのままでいられるだろうか……。そうあってほしい。

鎌野静華 石塚真一先生は三歩みたいにさわやかな方でした。全然脈絡ないですが『なんだ礼央化2』もよろしく

ただ、楽しい。おもしろい。
魅了されっぱなしの物語

超能力、隠蔽された歴史、架空のイキモノ。設定だけでたまらないのに、ミステリーも入ってる、とくれば没頭しないわけがない。世界観の奥深さにホレボレする一方で、この世界は私たちの未来かも、とぞっとする。あちこち振り回され、まるでジェットコースターに乗った気分。だけど残るのは酔いではなく、楽しかったという爽快感だけなのだ。

野口桃子 第3回ダ・ヴィンチ文学賞の最終候補作が発表になりました。大賞は10日にWEBで!次号でも発表します

1000年後は遥か遠く
しかし断絶は決してない

遙か1000年後の世界に仮託されて本作で語られるのは、どうしようもなく変わり得ない人間の本性である。たとえ1万年と2000年経っても人は家族を愛し、友情を育み、力に憧れ、そして他者をおそれるのだろう。だからこそ僕らはこの目眩めく冒険に心躍らせ、悲劇に胸を痛める。ページを繰る僕は確かに新世界を走っていた。

中村優紀 新人編集者から二年目ペーペー編集者に自動クラスチェンジしました。早く無印の編集者になりたいです

他の命を喰らい今日も生きる
せめて鈍感にならぬように

命を使うということについてぐるぐる考えた。生きるための最低限をはるかに超え、我々は他者の命を利用し消費することに鈍感だ。生命に手を加え利益を得るのも、SFの中の話でなくとも既に日常的なことなのだろう。でも我々の多くはその実情を知らない。早季は彼らの世界の真実を知ったが、私たちはまだその前段階にいるのかもしれない。

岩橋真実 プラチナ本推薦がきっかけで貴志さんの取材に行かせていただきました!博識ぶりに脱帽、ますます好きに

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