若いから書けた、と思わせて実は普遍的な足掻きの物語

小説・エッセイ

2013/7/6

何者

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:朝井リョウ 価格:1,296円

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扉を開くと、登場人物紹介欄がある。いや、ちょっと待て。よくある登場人物紹介とは、なんだか見た目が違う。四角い絵だの写真だのの横に名前と、@のついたアルファベット。自己紹介めいた文言と、中にはサイトのアドレスが載っている人も。……そう、これはツイッターのプロフィールなのだ。まずはこれをじっくり読んで欲しい。

『何者』をものすごくざっくりとひとことでまとめてしまえば、就活小説ということになる。就活の情報交換をきっかけに集まった5人──拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。それぞれ性格も目標も意識も違う5人が、就職活動を通して、自分は何者になりたいのか・何者にならなれるのかを模索する物語だ。いや、そこにもうひとつ「何者に見られたいのか」という要素を加えよう。

読み手の世代によって感じるものは異なるだろうが、就職活動が昭和だった(!)年齢の私が読んでまず驚いたのは、「今の就活ってこんなふうになってるのか」ということだった。ウェブでエントリー? Facebookで情報収集? へええ、なんというイマドキな! けれどその驚きは次第に影を潜める。ここにあるのは、今も昔も変わらない、自分の「ありかた」と「見せかた」の乖離に悩む若者の姿だ。こうありたい自分がいる、けれどその理想に達していないと自覚したとき、どうするか。目標を変えるか、努力するか、それとも──?

 

友人の内定に焦り、巧くいかない就活に悩み、理想と現実の乖離に足掻く若者たちの物語は、思わぬ場所に着地する。多くは書けないが、これはむしろミステリーにカテゴライズしてもいいのではないか、と思うような展開とショッキングな「真相」が隠されているのだ。この手がかりや伏線はまさにネット社会ならではのもので、普遍的な若者の葛藤を描きながらも、現代だからこそのメンタリティを浮き彫りにする。そこに思わぬサプライズを仕込む。そのバランスが見事。

そこで再度、冒頭のプロフィールに注目。戸籍の本名を書いている人、カタカナの人、好きなものを並べる人、格言めいたものを書く人……ツイッターに慣れた人なら、ここから驚くほど多くのことが読み取れるだろう。個性が出る、というより、自己演出と自意識が透けて見えると言った方がいい。自分をこう見て欲しい、という「欲」あるいは「武装」が浮かび上がる。

ネットというツールを手にした私たちは、かつてなかったつながりを得た。と同時に、強迫観念も背負ってしまったのかもしれない。何者かになりたいのなら武装なんかせず、とことん足掻けばいい。「自分は何者にもなれない」という諦めにも似た思いを抱いて初めて、若者は「何者」かに向かって歩き出せるのだから。これはそんな希望の物語だと、私は読んだ。


ツイッターのプロフィールがそのまま登場人物紹介欄に。瑞月ちゃん、そこまでさらしちゃって大丈夫?

小さくて見にくいでしょうが、これだけのプロフィールでも何となく人柄が見えてくるもんです。理香さんはRIKAではなくRICAと表記してる