これぞ江戸版、ミッション・インポッシブル! 藩取り潰しの危機を救えるのか?(2014年6月映画化)

小説・エッセイ

公開日:2014/1/31

超高速!参勤交代

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:BookLive!
著者名:土橋章宏 価格:1,242円

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 かぐや姫のような美女からならばまだ許せるが、こちらを嘲笑うかのように道理に合わぬ要求をふっかけてくる為政者は腹立たしくてたまらない。「どうして生まれだけで弱き者が虐げられねばならないのだ」。世の中出自が全てなのか。善を勧め、悪を懲しめることなどできないのか。

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 土橋章宏著『超高速! 参勤交代』の舞台は八代将軍・徳川吉宗の時代。幕府の老中・松平信祝が湯長谷藩で見つかった金山を手に入れるため、大名・内藤政醇に「5日以内に参勤せねば、藩を取り潰す」との無理難題をふっかけてくる。藩の危機を救うために、知恵者の家老・相馬兼嗣らとともに政醇は通常なら8日かかる江戸までの参勤交代を成し遂げようとする。「すぐ支度せよ。5日のうちに江戸に行き、老中の肝をつぶしてくれる!」時間がない、金がない、人も足りない彼らは無事に江戸に辿りつくことはできるのか。

 「弱き者が必死になっている様はおもしろいのう」。老中・松平信祝は私利私欲にまみれた冷徹な男だ。莫大な費用がかかる参勤交代をわずか5日でやれという要求も道理に遭わないが、金山を自分の手中に必ず手に入れるため、公儀隠密、御庭番、百人番所の精鋭部隊を派遣し、湯長谷藩の行く手を阻もうとするのもあくどい。松平信祝の手先に見張られながら成し遂げる5日の参勤交代はまさに江戸版、ミッション・インポッシブルといえるかもしれない。

 あくどい老中の一方で、内藤政醇は家来や民を深く思いやる。家来を信頼しきっている姿は時に危うくも見えるが、読者であれば、「こんな上司に巡り合いたい」と思うこと間違いない。「金がなくても、おぬしには知恵があろう」。家来を信じ、家来にあった役割を与え、温かい言葉を投げかける政醇こそが為政者に相応しい人材なのだろう。逆境にも負けず、ひたすらに江戸を目指す政醇と7人の仲間が生み出す大名行列はどの藩の行列にも負けない程に立派で、強い結束力と熱い想いに溢れている。

 本作は2014年6月には佐々木蔵之介主演で映画化されるのだから、映画と合わせてチェックしておきたい作品だ。無理難題に仲間とともに立ち向かいながら、相手を見返すことを心に誓う湯長谷藩の人々を見ていると、「倍返しだ!」と言い放った半沢直樹に通じるような悪を懲らしめんとする熱い魂が見てとれる。どんな無茶を言われようと、人は戦い続けなくてはならない。悪を駆逐し、下克上したい全ての人に読んで欲しい1冊。


たった5日で参勤交代をすることになってしまった

段蔵という忍びに道案内をさせることに

道中には危険がたくさん。一体どうやって乗り越えるのか

ギリギリ時間に間に合いそうにない…そんな時に生み出した妙策とは
(C)土橋章宏/講談社