『娚の一生』が話題の西炯子氏の原点を読んでみよう!

コミック

2014/5/6

うすあじ─西炯子短篇集─ (ウィングス・コミックス)

ハード : iPhone/iPad/Android 発売元 : 新書館
ジャンル:コミック 購入元:Kindleストア
著者名:西炯子 価格:※ストアでご確認ください

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 出会うはずのなかった食材が鍋の中で出会えば、いい出汁が出る。アクが強いものほどうまみを残すし、そんな奴が他の食材と意気投合してしまえば、深みのある味が生まれ、ついつい箸が止まらなくなる。こんな日常に見る非日常的なささやかな奇跡。それは、人間界でも起こりうるのかもしれない。世間という巨大な鍋の中で、関わるはずのなかった人が出会えば、何らかの化学反応が起きる。そうして次第に、意外なことに、深い絆が生まれることだってあるのだろう。

 西炯子氏著『うすあじ』は同時に発売された『こいあじ』と同様に、1994年に刊行された『え・れ・が』、1997年刊行の『わたしのことどう思ってる?』、1998年刊行の『さよならジュリエット』の短編集3冊を再編集した作品だ。「本当にこれがうすあじなのか?」と疑問に感じてしまうほど、バラエティ豊かなラインナップ。ファンタジーから恋愛物、時代物までありとあらゆる5作品が収められたこの本は「うすあじ」というよりは、後を引くようなダシの効いた作品集だ。『姉の結婚』や『娚の一生』など最近の西氏の作品しか読んだことがなかった者も今まで西氏の作品に触れたことがなかった者にもぜひ読んでほしい作品がぎゅっと詰め込まれている。

 彼氏にフラれ、泣いてばかりの生活を送っていた専門学生がふとしたきっかけで隣人との距離を縮めていく「わたしのことどう思ってる?」。メガネが割れてしまった青年が些細な事件に巻き込まれる「眼鏡のない日」。現役大学生作家の視点で、そのファンと友人のいびつな友情を描いた「So much to say」…。西氏の作品はどれも情緒的で読む者の心を揺さぶる。個性的な登場人物も愛らしくてたまらない。たとえば、「わたしのことどう思ってる?」の専門学生の主人公・らむねは弱虫で、いつも貧乏くじを引いてしまうタイプの地味な女の子。そんな彼女が隣人・追手門と関わり合っていく。追手門はいつも派手な女を連れ込んでいるように見える男だが、正反対の2人は次第に互いの魅力に気づいていく。人間の複雑な心情、何がどうなるか分からない人間関係を西氏は鮮やかにあっさりと描いてしまう。

 また、『うすあじ』では、日常で起こる不可思議な出来事が多く取り上げられている。日々の生活にはこんなにもミステリアスな一面が潜んでいたのか。こんな奇跡が日常には溢れていたのか。思いがけない展開に、自分は何を見落としてしまったのだろうかと何度も作品を読み返したくなる。後を引く作品の数々にページをめくる手がとまらなくなること間違いなしの1冊。


彼氏にフラれて心機一転、部屋の模様替えをしていると、壁に継ぎ当てを発見…

隣人との絆が次第に深まっていく「私のことどう思ってる?」

メガネが壊れた日の不思議な出来事を追った「眼鏡のない日」

人間の微妙な感情の機微を巧みに描き出している