80年前の海外旅行とはどんなものだったか。行く先々で旅費を工面しながらの妻帯旅行記

小説・エッセイ

2010/12/12

どくろ杯

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:金子光晴 価格:486円

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大正や昭和初期、戦後から60年代、70年代頃までの時代に興味があるので、本でも映画でも写真でも、その時代が描かれているというだけで、選ぶことがよくある。

「どくろ杯」は金子光晴の自伝で、妻となる女性との出会いから、最終目的地の巴里に向けて妻と共に出発し、上海を経て香港、ベトナムやマレーシア、シンガポールなどのへ放浪の旅を綴ったもの。大正末期から昭和初期にかけての東京の人々の暮らしぶりや、当時の上海の様子などがよくわかる。

また、民主主義や人道主義、無政府主義などの新しい思想に目覚めた当時の若者たちが、いまだに”女衒”が活躍しているような時代にどんな生き方をしているかを知るのも興味深い。

タイトルの「どくろ杯」は、モンゴルで手に入れたという、殺されたか、病死したかわからない若い女性の頭蓋骨で作った杯。金子の友人が自分もどくろ杯を作りたいと言って、上海で土葬になった子どもの死体から頭蓋骨を盗んできてどくろ杯を作ろうとする。これはエピソードのひとつに過ぎないとはいえ、私にとっては気持ち悪く、決して娯楽として読みたい本ではない。ただ、この当時の人たちにとって、病気や貧しさ、死や死体は今よりもっと身近なものだったことがわかる。

今は、汚いもの、不衛生なもの、不快なもの、怖いものを見ないですませたいと思えば、見ないで快適に過ごせる時代。私たちはこの頃の人に比べると、こういうことに対して、過敏でまたもろいはずだ。そういうことを自覚するために、たまにこういう本を読んでみるのもいいのでは。

金子光晴はこのあとヨーロッパに向かうが、金子の目に当時のヨーロッパがどんな風に映ったか興味があるので、ほかのエッセイも読んでみたいと思っている。

目次を見ると旅情をそそられるような見出しが並ぶが、本のタイトルは「どくろ杯」。優雅な旅行記などではないことが察せられる。見出しをクリックすると、本文にとぶ

近所の店という店に付けが貯まってしまった様子や、家賃を26ヶ月滞納している友人の話も。当時のビンボーは今とはケタが違う