アイスダンスを軸に複雑に絡み合う、恋と過去の傷

公開日:2011/9/4

キス&ネバークライ (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:小川彌生 価格:432円

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幼い頃から母にフィギュアスケートを習っていた小学生の黒城みちる。シングルスケーターとして育てられていたが、本当は母と亡き父のようにアイスダンスをやりたかった。そんなとき、ハーフの少年・礼音と出会い、アイスダンスを習い始める。しかし、みちるはある事件に巻き込まれてしまい…。

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『君はペット』でも知られる小川彌生・著。
  
1話はみちると礼音がアイスダンスを学んでいた幼い頃を、2話以降ではみちるたちが成長し、それぞれの道を歩み始めている姿を描いている。
  
フィギュアスケートという題材と共に描かれるのは、みちるを取り巻く恋愛と、彼女が幼い頃に巻き込まれたある事件。みちるはその事件のせいで、心に大きな傷を抱え、暗い闇から抜け出せずにいた。
  
ミステリー的要素ももちろん楽しめるのだけど、なんと言ってもフィギュアスケートの世界が垣間見られるのがおもしろい。おまけに、描かれているのが今人気のフィギュアの中でも、若干マイナー感が否めないアイスダンス。
  
2度ほど生で観たことがあるが、その美しさはシングルやペアとは異なる魅力がある。この作品を読んでからだと、また見方も変わるし、より楽しめそう! ルールや用語を理解できるようになってからだと、今まで気付かなかったところも拾えるハズ。
  
精神面が大きく影響する競技の中で、みちるはどのように成長し、アイスダンスの世界で栄光を勝ち取っていくのか。みちるが巻き込まれた事件の闇は晴れるのか。そして、みちるが結ばれる相手は…。アイスダンス、ミステリー、恋愛が絡み合い、一度読み始めたら、中断することは不可能。どっぷりと世界に浸ってしまう。
  
また、全てのキャラクターが魅力的なのが惹きこまれてしまう大きな要素のひとつ。強い女性の中にある「もろさ」がとても繊細に描かれている。それを見守る周囲にいる男性たち。わざわざ「君って強い女性なんだね」なんてこと絶対に言わない! 優しく、そしていざというときに強い。それぞれのキャラクターがちょっととぼけていたり、ユニークであることも、この作品では暗い闇の部分をより際立たせている。クスッと笑えるシーンがあることで、作品にメリハリが出ているというか…。
  
4巻で少しずつ解き明かされ始めた、みちるの事件の闇。一方で、みちるを取り巻く恋愛は本人が知らないところでますます激化。ライバルがいると盛り上がるのは必至なのだけれど、全てが良いキャラだと、想いが実らない人が出てくるのが切ない。みんなが幸せになれたらいいのに、と乱暴なことを思わずにはいられないのが罪つくりなところである。

アイスダンスを習い始めたみちると礼音。お互いの淡い初恋?

数年後の礼音。ヒーローはやっぱり成長したらカッコよくなっていてくれないとね!

要所ではきちんと用語の注意書きもあるので分かりやすい

巻末には用語集付き

この作品の名脇役は『君はペット』の武志。ちょいちょい、いいこと言ってます (C)小川彌生/講談社