知的でありながら軽く物語性に富んだ論理を風発する中島らもの最高傑作

小説・エッセイ

公開日:2011/12/12

ガダラの豚 1

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:中島らも 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

中島らもがなんでこの本で直木賞を取れなかったかというと、あんまり長くて選考委員が全部読まなかったからだというまことしやかな噂があります。いや、まことしやかな嘘かも知れませんが。そんなに面白いんならつい全部読んじゃうんじゃないのかという反論が当然あるわけですが、エンタメ作家なんて自分より面白い本にぶつかったら悔しくって読みませんよね、と僕は思うのであります。うがちすぎでしょう。

advertisement

そういうわけで長いのでダラダラあらすじ書けないのですが、

アフリカの呪術師研究で知られる大生部教授は、8年前に娘を失って以来酒に溺れ、妻は神経を病み新興宗教に入信、鬱屈した日を過ごしている。そんなとき、テレビ局の取材で大呪術師バキリと会うためふたたびアフリカを訪れることになる教授。バキリに面会した大生部は娘の死の秘密を知るとともに呪いを受け、舞い戻った東京で身の回りの人間が次々と奇怪な死を遂げるのだった。

中島らもは「軽さ」を第一と考えるために、しばしば脱力した薄味の書きぶりで作品の上をズワーッと走っていく楽しさを提供します。それはそれでたいした才能であって魅力なのですけれど、実は本書「ガダラの豚」だけはみっしりと書き込まれた文章がじっくりと取り組んで読破する本気の読書の幸福を与えてくれるのです。

まず、新興宗教、仏教やキリスト教など、呪術、超常現象、あるいはテレビなどのメデイア論、集団に働くメカニズムといった社会論、などなどを知的でありながら軽く物語性に富んだ論理でぐいぐい書きほぐしていく快感は絶大です。

次にキャラクター、とくにアフリカの大呪術師として登場するバキリという男の醸し出すおぞましい空気などそこら辺のホラー映画は顔負けなくらい。読んでてなんていうか、つい背後を振り返りたくなってくる感じ。こわいっすよ。中島らもが物語り作家としてとてつもない才能だったことをありありと確認してしまいます。

娯楽小説ってこういうガツンと手応えのあるものをいうんだよなあとシミジミ感じ入ってしまいました。らもさん、岡野版直木賞は本作で取ってます。

タイトル「ガダラの豚」は聖書のエピソードからとられている

書き出しはいつものごとく下らなぁくゆるく、実に入ってゆきやすい

急転直下話は密教の激烈な行をめぐって緻密なデータを書き並べる。このやり方が以下全巻のスタイルを暗示する