テリー伊藤が見た北朝鮮と若者たちの性事情…24年前に北朝鮮に対する心構えを提唱していた『お笑い北朝鮮』

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2017/9/20

『お笑い北朝鮮 金日成・金正日親子長期政権の解明』(テリー伊藤/コスモの本)

 北朝鮮のミサイル外交が止まらない。9月15日、政府は北朝鮮からのミサイルが「襟裳岬東約2200キロの太平洋上に落下した」と発表。先立つ14日には、朝鮮アジア太平洋平和委員会が声明で、日本列島を核兵器で「沈める」と警告するとともに、最近の核実験に対する追加制裁決議を行った国連を破壊して「廃墟と暗黒」にすると威嚇したとロイター通信などが伝えている。

 しかしキナ臭いニュースと米朝威嚇合戦の繰り返しにマヒしてしまい、実際のところのリアルな危機感が薄れてはいないだろうか? そんな風潮に「考えてもみてほしい」と、注意喚起するのは著作・評論・演出を手掛けるテリー伊藤氏だ。

 とはいえ、テリー氏が「考えてもみてほしい」を多用しつつ、北朝鮮の言動に注視するよう促したのは、1993年9月1日に出版された処女著書『お笑い北朝鮮 金日成・金正日親子長期政権の解明』(テリー伊藤/コスモの本)でのこと。しかし24年前の本とはいえ、軽視は禁物だ。本書にあるテリー氏のこんな言葉をまず紹介しよう。

 日本人は物忘れの天才だ。
 広島、長崎に原爆を落としたのがアメリカだという事実を知らない若者がたくさんいる。
 ところが朝鮮民族は過去をたやすく忘れる性格ではない。(中略)
 北朝鮮にいたっては、未だに第二次世界大戦の終了がつい昨日のように思っている民族だ。
 言ってみれば、毎日が1945年(昭和20年)八月十六日なのだ。
 これはすごすぎて笑えない。

 つまりテリー氏は、「北朝鮮は戦後もずっと臨戦態勢であり、いつ威嚇が行動に移されてもおかしくはない」と警鐘を鳴らしているのだ。同書の発売から24年を経たいま、この言葉はより重みを増しているはずだ。

 そんなシビアな見解を説く一方、タイトルにある通り「お笑い要素」たっぷりな本書でテリー氏がフォーカスするのは、現リーダー、金正恩の父で当時の書記長、故・金正日(キム・ジョンイル、1941年2月16日-2011年12月17日)だ。

 1990年代に『浅草橋ヤング洋品店』などの人気番組を手掛け、天才TVディレクターと呼ばれたテリー氏は本書で、「(一国の国民を自在に操る)金正日書記長こそがもっとも私に影響を与えてくれた演出家」だと記す。そしてテリー氏は「国家演出家としての金正日書記長のリアル」を知るべく特殊漫画家の根本敬氏らと訪朝を決行。その成果を本書で「長期政権を可能にするいくつかの理由=名演出」としてまとめあげた。

 例えば「金書記長がこんなすごいことをした」というエピソードを他者より多数報告させることで、その存在を神格化させる口コミ演出、芸に秀でた子どもたちをダシにしたイメージアップ演出、映画・演劇製作などによる芸術家演出など、数々の例を挙げつつテリー氏は書記長のスゴ腕演出家ぶりを解説していく。

 なんといっても面白いのは、根本敬氏の特殊漫画で描かれるテリー氏たちの「北朝鮮お笑い珍道中」のコラムだ。北朝鮮人ガイドに「売春宿はないか?」と聞いて怒られるシーン、若者たちの性事情のリアルを聞き出すシーンなど、酒の席を有効活用したテリー外交のくだりには「さすが天才!」と感銘する。

 ともあれ時代は変わり、父と違って芸術には見向きもせず、核開発とミサイル外交に一辺倒なのが現リーダーの金正恩である。もはや笑ってはいられない。「近くて遠いかの国は、いつでも臨戦状態」ということだけは変わらぬ真実。このことを私たち日本人は、より深く胸に刻む必要があるのかもしれない。

文=町田光