最大の敵は「酒」「性欲」「金」! 現代にも通じる忍者コミュニケーション

暮らし

更新日:2017/10/10

『忍者はすごかった 忍術書81の謎を解く』(山田雄司/幻冬舎)

 マンガやアニメでもおなじみ、海外の人からも日本といえば「ニンジャ!」と言われるほど人気が高い忍者たち。黒装束を身にまとって印を結んでドロンと消えたり、ガマガエルに変身したりと、そんなイメージを抱いている人も多いだろう。しかし、それはフィクションだと断言するのは、忍者研究の第一人者である山田雄司氏。山田氏は『忍者はすごかった 忍術書81の謎を解く』(山田雄司/幻冬舎)で、400年前の忍術書から本当の忍者の姿や、現代にも通じる忍者のコミュニケーションを紹介。実際の忍者はもっと現実的で、コミュニケーション能力を大事にした人たちだったという。

 マンガやアニメでは忍者が敵と戦うシーンが多く登場し、忍者の使命は戦うことだと思っている人は少なくないだろう。忍者にとって大事な使命とはなにか? それは、敵と戦うことではなく、敵方の情報を主君に持ち帰ることだった。忍者の主な仕事は情報収集であり、敵城に忍びこんで情報を集め、日中は僧侶や旅人に化けて話を聞き出していた。だから、忍者に必要な能力は、「臨機応変な適応力」「見聞きしたことを覚える記憶力」「コミュニケーション力」とされていた。特に、相手から情報を聞き出すために必要なコミュニケーション力は重要視されていたのだ。

事のあらわるべきも時節なると云ながら、あやしき下ろうなど語らい、いやしき同類を求むるこそ、あらわるべきのはしなり。――『正忍記』より一部抜粋

 本書では忍者たちがまとめた忍術書をわかりやすく解説、忍びの教えを紹介している。たとえば、上記は忍術書『正忍記』の一文でわかりやすく解説すると「事が露顕するのはそのときの運もあるが、怪しげな下郎たちとつるんだり、賤しい同類を求めたりすることによって、露顕するもととなる。」という意味だ。忍者たちはさまざまな秘密を握っていて、当然その秘密は決して人に知られてはいけない。しかし、素性の知れない怪しい人とつきあうと、その世界に引きこまれ、しまいには秘密を話してしまうなど、身を滅ぼすことにつながることもある。そうならないためには、まずどのような人と付き合うか意識することが大切だと説いている。

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 コミュニケーションをとる相手をまずは吟味する、それは現代にも通じる考えだ。ほかにも、「相手と親密になるために人の好き嫌いを覚えて利用する」「アメとムチで相手の心をつかむ」など、忍者たちのコミュニケーション術は生き抜くための心構えや知恵が詰まっていて、現代においても十分通じるものが多いのだ。

常に酒、色、欲の三つを堅く禁制し、ふけりに楽しむべからず。――『万川集海』

 コミュニケーション能力に長けた忍者たちが、固く戒めていたものがある。それが「酒」「色」「欲」の三つだ。酒、色、欲の三つにふけって、うっかり秘密を話したり、被害をうけたりと、欲に溺れて身を滅ぼすというのは古今東西でよくある話。忍者にとっても大敵だった。慎むことが大事だと、あらゆる忍術書に書いてあるのだからおもしろい。

 伊賀流忍者博物館所蔵『謀計須知』には、「敵の主将を謀るには、その気質により、または好むところにしたがうのがよい」とある。忍者たちは自分を戒めた一方で、誰かを術中にはめるときには相手の好きなもの、酒や金などを利用して、自分の欲しいものや情報を手に入れていた。人がもつさまざまな感情を利用し、相手の心に入りこんでいた忍者たち。そのために忍者が大切にしたことは、自分自身の性格を知り感情をコントロールすること、相手のことをよく知ることだった。自分の年齢や立場、相手や場面によって、柔軟な対応が求められるコミュニケーション。それを命がけで極めた忍者たちから、現代人が学ぶことはまだまだ多いことだろう。

文=なつめ