音信不通の父親が息子に贈ったクリスマスプレゼント。ライブチケット紛失の犯人として疑われた親友を救うため、奮闘する女子中学生――。心温まる本格謎解き小説

文芸・カルチャー

公開日:2017/12/14

 『ひまわり探偵局』(濱岡稔/文芸社)は、ほんわかライトミステリー……かと思いきや、かなり「凝った」謎解きが読者を魅了する、読みやすくも本格推理を堪能できる小説だ。

 平凡なOLだった三吉菊野――通称「さんきち」は、寝ぐせ頭の探偵助手。彼女が師事しているのは陽向万象(ひなた・まんぞう)なる「豆大福のようなぷよぷよ感が全身を包んでいる」という癒し系の超名探偵。年齢は「40歳をちょっと越したくらい」らしいが、菊野にも実際のところは何歳か分からないという。

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 温厚で物腰が柔らかく、甘い物が大好きな陽向だが、推理力はピカイチ。さらには様々な分野において、常人離れした知識を有している博覧強記でもある。

 11月に発売された最新2巻でも、そのすさまじい知識を活かし難解な事件を「ほんわか」解決してしまう。だが、陽向が解く謎は「ほんわか」とはほど遠い。「なんちゃって謎解き」ではなく、様々な知識と柔軟な発想力がないと解けない超本格ミステリーなのである。

 クリスマスも近づく冬の日、ひまわり探偵局を訪れたのは菊野と同年代の20代後半の男性、江上峰青(えのうえ・みねお)。彼は父親の書いた「意味不明な図面」の真相を明らかにしてほしいと頼む。

 江上の父親は、彼が小さい時に離婚して音信不通となっており、江上は母子家庭で育っていた。大人になってから母親が重い病にかかり、余命いくばくもないという時、江上は母親から、父親から託されたという「封書」を渡される。

 さらに両親が別れ、父親が自分の前から消えた「本当の理由」を知った江上は、封書の中にあった「謎の図面」を解読し「父の本心」を知るため、陽向と菊野と共に謎を解き明かそうとする。

 父の書いた手紙の中身は、縦横にびっしりと線が並んだ未完成の地図のような図面が1枚と、暗号表のようなものが2枚。

 本作の中で、この3枚の図がイラストで見られるのだが、まったく意味が分からない。どこから手を付ければいいのかも難しい「超難問」である。

 謎を解くキーポイントは、「不動産」と「茶の湯」らしいが、この2つがどう繋がるというのか。暗号が示すものとは一体何なのか。「仕事人間」だと思っていた父親の本当の姿を知った時、江上も読者もホロリと涙を流し、心がほっこり温まるだろう。

 ちなみに本作は、サブカルネタも満載である。菊野は人に警戒心を持たせない、ほんわか容姿&性格とは対照的に、意外と黒い一面もある陽向のことを「邪悪なムーミンパパ」と思ったり、実は探偵界のブラック・ジャックなのではと妄想したり――そしたら自分はピノコになるが、私は先生の「おくたん」ではない――といった、知らない人は「?」だが、知っている人にはがっつりツボに入る小ネタが散りばめられている。2巻はガンダムネタが豊富なので、お好きな方は思わずニヤリとしてしまうだろう。

 本格謎解きと心温まる連作短編のストーリーは、2巻からでも問題なく読めるので、自分の気になったお話のある巻から手に取るのもおススメだ。

 2巻はご紹介した通り「謎の図面」事件と、菊野の姪、真鳥(まとり)が登場し、中学校で起こった「ライブチケット紛失事件 」の解明を求め、探偵局にやって来るお話が収録されている。

 クラスメイトが自慢するために学校へ持って来た人気バンドのライブチケットが盗まれてしまい、その犯人だと疑われたのが、真鳥の親友、永鈴花(えりか)。

「友達を助けたい」一心で、真鳥はチケットを盗まれた女子生徒の机に入っていた「不可解な手紙」を解読し、真犯人を探し出そうとする。だが、思わぬ「真相」が明らかになってしまい……というあらすじ。こちらのキーワードは「鳥」「アリス」「友情」だ。

 みなさんは、どちらに興味を持たれるだろうか? 陽向の「ほんわか」に癒されて、その素晴らしい謎解きに圧倒されてほしい。

文=雨野裾