テレビ番組解説でおなじみの池上彰氏がグローバル時代に求められる「宗教の基礎知識」をわかりやすく解説!

社会

公開日:2017/12/13

『知っているようで実は知らない世界の宗教(SB新書)』(池上彰//SBクリエイティブ)

 多くの日本人が「初詣は神社へ、結婚式は教会で、葬式はお寺で行う」といわれる。そのため日本人は宗教に対して「いい加減」、よく言えば「寛容」と評されることが多いわけだが、文化庁の統計によると日本の宗教団体における総信者数は、人口よりも多い1億8889万2506人(平成27年12月31日現在)となっており、決して信仰心が薄い国民とはいえないようだ。

 だがその一方で、世界の三大宗教についての基礎知識がどれほどあるかといえば、胸を張って明確に答えられる人はそれほど多くはないのではないだろうか。

 本書『知っているようで実は知らない世界の宗教(SB新書)』(池上彰/SBクリエイティブ)は、そんな一般的な日本人に向けて「あなたは次の質問に答えられますか?」と以下のような問いを投げかける。

advertisement

Q、イスラム教徒はなぜ断食するの?
Q、カトリックとプロテスタントの違いは?
Q、神社とお寺はどう違うのか?

 こうした「いまさら聞けない宗教の基本」について教えてくれるのは、わかりやすい解説でおなじみのジャーナリストの池上彰氏だ。本書は、テレビ朝日の人気番組「池上彰のニュースそうだったのか‼」の中から宗教に関する事柄をまとめる形で書籍化されたもので、知識ゼロという人から教養人まで、「そうだったのか‼」と新たな発見が生まれるような工夫がなされている。

 第1章では主に世界三大宗教と日本の宗教について、第2章ではキリスト教のカトリックとプロテスタントの違い、第3章では仏教、第4章ではイスラム教、第5章では神道についていずれも平易な言葉で述べられており、さらに池上氏の現地取材に基づいた解説も加えられていることから、初歩的な知識だけでなく、それぞれの宗教のリアルな話がエピソード記憶としても印象に残る。

 例えば、仏教発祥の地であるインドのブッダガヤを訪ねた池上氏は、本書の中で世界遺産に登録されているマハーボディー寺院の様子を次のように記している。「ボーディ(菩提)には悟りという意味があります。マハーボディー寺院とは、悟りを開いたお寺ということ。そして、このお寺の中でもいちばんの聖地といわれてるのが菩提樹と呼ばれる木です。(中略)お釈迦様が悟りを開いたときちょうどその木の下にいたので、後から菩提樹と呼ぶようになったというわけです」。他にも、日本の聖地とされる高野山や沖縄・久高島、また本来のイスラム教の教えを知るためにアラブ首長国連邦のアブダビを訪ねた際の様子や、神道と関わりの深い天皇陛下が「田植え」をしているといった意外な話(!?)なども紹介されている。

 なぜ今、宗教への理解が求められるのか? 池上氏はその理由についてこう述べている。「現代を生きる私たち、グローバルに世界とつながる私たちは、もはや宗教と無縁ではいられません。2020年の東京オリンピックには多数の外国人が日本を訪れますし、選手村には『お祈りの部屋』も設置されるはずです。無用なトラブルを避けるためにも、まずは宗教の基礎基本を知っておきましょう」と。

 池上氏のいうとおり、円滑な異文化コミュニケーションの第一歩は宗教理解から始まることを思えば、本書はその入門書としてふさわしい一冊といえるだろう。

文=小笠原英晃