知られざる時計の世界! 歴史、仕組み、進化。高性能時計が「秒」の概念を変える?

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公開日:2017/12/22

『時計の科学 人と時間の5000年の歴史(ブルーバックス)』(織田一朗/講談社)

 現在、時計が時を刻む「精度」は、とんでもない段階に入っており、地球の歴史を超えて、宇宙を感じる時間にまでなっている。「多数のストロンチウムを光の格子に閉じ込めて時間を測定する『光格子時計』」によって、誤差が「300億年に1秒」という精度で時間を計ることができるようになったのだ。

 1970年代の時計は、一部の高級品を除き1日に15~20秒ほどの誤差が出ていた。1ヵ月もすれば4、5分のずれが生じてしまうので、多くの人がこまめに調整を行わなければならなかったことに比べると、300億年に1秒の誤差というのは、ものすごい精度なのである。

 さらに、この「光格子時計」を応用すると、「時空の歪み」の存在も立証できるという。
「時空の歪み」なんて、SF小説やマンガの中でしか聞いたことはなかったが、実在するのだ。

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 時計ってスゴイ。奥深い。人類の叡智の結晶であり、ただ時を刻むだけではなく、私たちにSFロマンも感じさせてくれる。
『時計の科学 人と時間の5000年の歴史(ブルーバックス)』(織田一朗/講談社)は、そんな時計の魅力に気づかせてくれる「マニアックだけど面白い」専門書である。

 本書は時計の歴史から、構造、仕組み、進化の過程、将来の時計についてなど、専門的な内容が、分かりやすくまとめられている。

 時計マニアなら垂涎の書であり、それほど時計に興味はなくても、関心を持って読めるはずだ。「時間」を一切無視して生きている人間はいない。本書を読めば、普段意識していないけれど、確実に私たちの世界に存在する「時」を認識し、またその奥深さに魅了されるのではないだろうか。

 アインシュタインは「相対性理論」の中で、「時空のゆがみ」の存在を予言している。
これは「重力の影響が小さい方が、時間の進み方が速い」というもの。つまり、「高さの異なる所に置かれた2つの時計の時間の進み方は厳密には異なる」はずなのだ。

 そこで「光格子時計」を使用し、日本で立証のための実験が行われた。詳細は本書に譲るとして、実験は成功。最新鋭の時計は「時空の歪み」が存在することを証明しただけではなく、精度の高い「質量」の測定にも有効であることが分かった。

 また、高精度時計によって、もう一度「秒」の定義が変わる可能性があるという。
 時間は絶対的で、不変的なものだと思っていたのだが、人間が「時を計る」技術を発展させることにより、「時」の概念も変わっていく。なんだか私はそのことが、すごく神秘的で興味深く感じる。

 本書の読み方は人によって様々だろう。

 時計そのものが好きで、その構造を詳しく知りたい方。
 時計の歴史が好きで、日時計、水時計、砂時計、近代以前の機械式時計の仕組みが知りたい方。
 高精度時計によって変化していく「時」の概念に興味のある方。

 理系関連の話題にあまりついていけない私でも面白かったので、ぜひ多くの方に手に取ってもらいたい。

文=雨野裾