ハーバード大の教授10人のインタビューを通して世界から見た日本の価値を再発見

社会

公開日:2018/1/8

『ハーバード日本史教室(中公新書ラクレ)』(佐藤智恵/中央公論新社)

 ハーバード大学といえば、フェイスブックを起業したマーク・ザッカーバーグやマイクロソフトのビル・ゲイツなどが学んだ米国トップの名門大学として知られ、日本でもサンデル教授の「ハーバード白熱教室」が大ヒットしたことでもその名はまだ記憶に新しい。

 また少し時代を遡れば、80年代に大ヒットした『ジャパンアズナンバーワン』の著者エズラ・ヴォーゲル氏も同大学の教授(当時)であったことから、日本の幅広い世代にとっても知名度が高い大学でもある。

 本書『ハーバード日本史教室(中公新書ラクレ)』(佐藤智恵/中央公論新社)は、そんなハーバード大学経営大学院の教員や学生に対して、作家でコンサルタントの佐藤智恵氏がインタビュー取材を行い、それらをまとめた内容になっている。著者の佐藤氏が日本通の教員たちに特に聞きたかった点は、以下の4点だという。

advertisement

(1)ハーバード大学の教員や学生は、日本史から何を学び、何を教えているのか。
(2)歴史的に日本は世界にどのような影響を与えてきたのか。
(3)日本の強みと課題は何か。
(4)二十一世紀の日本が世界で果たすべき役割とは何か。

 取材対象者は10名で、各々の専門の立場から日本の一般庶民が知り得ないような話も飛び出すなど、インタビューに応えているのは「日本人の教授か?」と思わず勘違いしてしまいそうな興味深い内容になっていて、ついつい引き込まれてしまう。

 一例を挙げると、環境史が専門のイアン・ジャレッド・ミラー氏は、ペリーの日本への開国要求は中国との貿易を拡大するために日本の石炭や食糧が必要だったからだと述べ、情に厚い国民、民主主義、戦争の放棄という日本の強みが今後も生かされていくかどうか注目しているという。

 あるいは、人類学と和食の歴史が専門のテオドル・ベスター氏は、ユネスコ無形文化遺産に登録された和食の魅力について「下ごしらえ」を評価すると共に、マンガやアニメ、カラオケなどのソフトパワーが世界中に影響を及ぼす大きな財産となっていくはず、と述べている。

 経済学が専門のアマルティア・セン教授は、聖徳太子の「十七条憲法」こそ民主主義の先駆けであり、日本人の識字率が高い理由を仏教に求める一方で、少子化対策として移民の受け入れを提唱している。

 こうした視点は、「世界から見た日本史及び日本」の特徴や課題を知る上でとても役立つ。

 本書によると、ハーバード大学で日本史の授業が始まったのは1930年代で、「日本生まれのアメリカ大使」であったライシャワー氏の尽力で1973年に日本研究所が設立されてからはより積極的に推進され、現在は、芸術、文化人類学、社会学、建築学、法律、公衆衛生学など多岐にわたる研究が行われているそうだ。そして、特に同大学の学生から人気を集めているのが、日本のマンガ、アニメ、ファッションで、本書ではこうした学生からの声も紹介されている。

 アメリカのトップリーダーをめざす若者たちが日本から何を学んでいるかを知るのに、貴重な資料であると言えるだろう。

文=小笠原英晃