『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』ADを経て『全国コール選手権』『BAZOOKA!!!』も手掛けた、青春狂・岡宗ディレクターの仰天エピソード

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公開日:2018/1/6

『煩悩ウォーク』(岡宗秀悟/文藝春秋)

「迷わず行けよ。行けばわかるさ。いち、に、さん、ダァーーー」と叫んだのはアントニオ猪木だったが、迷わず行ったところで成功するとは限らない。ただ、その失敗談が後になって壮大な笑い話になることもある。

『煩悩ウォーク』(文藝春秋)は、1973年生まれのフリーテレビディレクター・岡宗秀悟がこれまでに経験した“キテレツ”な体験談をまとめたエッセイ集だ。第一章は岡宗が経験した数々の仰天エピソードを収録。第二章では阪神・淡路大震災体験記、第三章はBSスカパー!で放送された『BAZOOKA!!!』などでエッジの利いた演出を務めた岡宗のテレビマン回想記が綴られている。

 兵庫県神戸市のベッドタウンに生まれた岡宗は、ボーイスカウトという縦社会に身を置き、色欲や権力欲などの煩悩にまみれた青春時代を過ごす。1995年に阪神・淡路大震災を体験し、学歴もコネもないまま上京すると、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)のADという職を得る。

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 キーワードは“好奇心”だ。何か面白そうなことが起こりそうな気がする。その嗅覚だけで、岡宗は一見面倒くさそうな案件にも本能の赴くままに自ら飛び込んでいく。若さゆえの甘塩っぱい結果となってしまったものもあれば、「あれはいったいなんだったのだろう」というオチで終わることもある。かと思えば、想像を絶する結末を迎えることもある。事実は小説より奇なりという言葉を見事に体現しているのだ。

 岡宗は不器用でごつごつとした筆致でエピソードを描いていく。武骨な文体によりリアリティが肉付けされ、読者の眼前に魅力ある登場人物たちが現れて恥部をさらけ出し、臨場感あふれるストーリーを生み出していく。

 ちなみに、本書に猪木は出てこない。しかし、何かその魂を感じたような気がする。猪木がプロレスラーとしての全盛期を迎えたのは1980年代だった。スタン・ハンセン、ハルク・ホーガン、ブルーザー・ブロディ。癖のある外国人レスラーとの試合やマサ斎藤との巌流島での戦い。どれも時代の熱があった。岡宗はこの時代の熱を受け取っていたのだと思う。代表作『全日本コール選手権』はバカバカしくて腹立たしい。それでも男らしい熱のこもった世界観があふれる一作だった。

 首を突っ込むと面倒くさくなりそう。誰もがどこかで見たことのある光景だ。しかし、もしかしたら10回に1回くらいは面白いことが起こるかもしれない。その割合でも十分ではないか。好奇心だけで行動してみるのも悪くない。

文=梶原だもの