死神が「黒猫」の姿で降臨!? 現役医師による、死とあたたかにむきあうファンタジックミステリー

文芸・カルチャー

2018/1/11

『黒猫の小夜曲』(知念実希人/光文社)

 この世に未練を残したまま死んだ人の魂が幽霊になるのだとしたら、人間誰しも幽霊になって当然ではないか。自分が死ぬ日など想像できない。永遠に生きられるのではないかと錯覚してしまうほどの長い時のなかで突然訪れる最期。思い残すことがないままあの世にいける人などどこにいるのだろうか。

 現役医師・知念実希人氏が描く『黒猫の小夜曲』(光文社)は、人の死とあたたかに向き合うファンタジックミステリー。主人公は、この世に未練を残し地縛した魂を「我が主様」のところへ導くのを生業とする「死神」。「死神」というと、当然誰もがおどろおどろしい存在を想像してしまうだろう。だが、この物語に登場する死神は、なんと、黒猫の姿でこの世に降臨する。「死神」本人にとっては不本意らしいが、その猫らしいふるまいは、「死神」とわかっていても、愛くるしい。エサのカリカリの美味しさに魅了されたり、爪を研がずにはいられなかったり、大切な時でもまるくなるとついつい眠くなってしまったり、時にはカラスに襲われたり子どもにしっぽを掴まれることもある。

 この本の姉妹本『優しい死神の飼い方』では、ゴールデンレトリバーの姿になった「死神」が描かれたが、その可愛さは甲乙つけがたい…。犬派には『優しい死神の飼い方』、猫派には『黒猫の小夜曲』がオススメといえばいいだろうか。「死神」でありながらどうにも憎めない愛らしさに、ときに笑わせられたり、泣かされたりする。

 黒猫の姿で地上に派遣された「死神」が出会ったのは、ひとりの地縛霊の女性。その地縛霊は生前の記憶を失っているのにもかかわらず、この世に未練を抱えて成仏できないでいるらしい。昏睡状態の女性の体にその魂を入れた彼は、彼女の飼い猫「クロ」として、街の魂を救いながら、彼女の記憶を探り始める。しかし、出会う魂たちはなぜかとある製薬会社に関係する人物ばかり。「クロ」は製薬会社を中心として巻きおこっている事件を解決することができるのか。地縛霊の記憶を取り戻し、成仏させてあげることができるのだろうか。

「クロ」は死者の魂をあの世へと送るために、死者の魂と会話したり、人の記憶にアクセスしたりなど、死神ならではの力を発揮していく。「クロ」によって解き明かされる「霊」たちの思いは何とあたたかいことか。夫婦の絆や家族の絆に満ちあふれているものばかりだ。しかし、当初は「クロ」は人間たちの気持ちが理解できない。なぜ人間は合理的に物事を考えられないのかと、なかば呆れてさえいる。だが、人間とかかわりあうなかで、彼は人を思う心を知る。そして、未練を残した魂のために懸命に街中を走り回るようになるのだ。

 人間は、合理的には生きられない。自分が傷つくのがわかっていても、大切な人のことは忘れられないし、誰かのためになるならと、平気で自分を犠牲にする。この本を読むと、感情に振り回される人間に生まれたことをなんだか誇らしくすら思える。優しさあふれる登場人物たちの姿に思わず涙。「クロ」と飼い主の魂との友情からも目が離せない。この物語は、笑って泣いて心に響くあたたかい小説。ミステリーとしてもファンタジーとしても楽しめるこの本を読まないのは、もったいない。

文=アサトーミナミ