石田ゆり子絶賛で品薄状態に!『鳩の撃退法』の内容とは

文芸・カルチャー

更新日:2018/3/19

『鳩の撃退法』(佐藤正午/小学館)

 48歳とは思えない美しさを持ち、“奇跡のアラフィフ”とも形容される女優・石田ゆり子。そんな彼女が最近ハマった本があるという。

「散歩、読書、珈琲。この三つが合わさったときがわたしの至福の時なのです。ほぼ日のみなさんに勧められた佐藤正午さん著『鳩の撃退法』。止まりません。夢中です」

 文庫版『鳩の撃退法』(佐藤正午/小学館)を開く石田の姿を写したInstagramの投稿に「どんな本なのでしょうか」「私も読んでみたい」と、ファンたちの間でたちまち話題になり、この書籍は全国各地で品薄状態になった。Amazonでも今も「1~2か月以内に発送」という状態(※2/13時点。現在在庫あり)で、「はやく読みたいのに手に入らない…」という人も多くいるようだ。『鳩の撃退法』とは一体どんな本なのだろうか。石田ゆり子は何に惹きつけられたのだろうか。

 主人公は、直木賞を2回受賞したと噂される作家・津田伸一。かつては売れっ子作家だったが、今では落ちぶれ、無店舗型性風俗店「女優倶楽部」の送迎ドライバーとして働いている、女たらしの「ダメ男」だ。ある時、そんな彼のもとに、知人の古書店主の訃報が届く。形見として受け取った鞄の中には、数冊の絵本と古本のピーターパン、そして、3000万円を超える現金が。しかし、その金を使った途端、裏社会が動きだす。「昨日あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ」。1年前、忽然と姿をくらました家族。相次ぐ行方不明者。うごめく裏社会。疑惑の大金…。やがていくつかの事件と、津田自らが深く関わっていたある1日の物語が浮かび上がっていく。

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 佐藤正午さんといえば、三人の男と一人の少女の人生を描き出した『月の満ち欠け』で157回直木賞を受賞。『月の満ち欠け』では、時系列を行ったり来たりさせながら、先の展開が読めない前半と、パズルのピースが埋まっていく後半を、圧倒的な筆致で描き出した。『鳩の撃退法』でもそれは同様。物語はまっすぐな時間軸で進むのではなく、過去の話をしたかと思えば、未来の話に移り、かと思えば現在の話となる、というようにあちらこちらに場面が移り変わっていく。読み始めた時には読者は物語の全体像が見えずに困惑させられる。だが、螺旋階段をかけあがるように進んだその先、頂上には、凄まじい快感が待っている。

 どうしてこのように物語が展開していくのか。それはこの物語が、津田が自らの身に起こった出来事を「小説」として著したもの、という構造になっているからだろう。津田をとりまく「現実」と、彼の描く「小説のなかの話」の境はどんどんなくなっていく。小説とは何のために書くのか。どうして小説家はものを書かずにはいられないのか。次第に、佐藤正午氏自身の小説を書くことへの思いもにじみ出ていく。

「怖いからな? ひとに読んでもらえない小説を書くのは」
「僕が小説として書いているのは、過去にあり得た事実だ」

 謎が謎を呼ぶ展開。物語のなかにちりばめられたユーモアある表現。クスッとさせられるセリフ。上下におよぶ大作だが、あっという間に一気読みできてしまうだろう。『鳩の撃退法』といいながら、ノックアウトされているのは、もしかしたら読者たちなのかもしれない。鳩に豆鉄砲。物語が進むにつれて、何度驚かされたら良いのか。この驚きを、この快感を、読書家の人もそうでない人もぜひとも味わってみてほしい。

文=アサトーミナミ