結局、「アナログレコード」が良いに決まっているのだ

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公開日:2018/2/24

 ソニーが29年ぶりにアナログレコードの生産を復活させるという。それはそうだろう。アナログレコードの国内生産枚数が最も少なかったという2009年の10倍にもなったというアナログレコード市場。そういう数字を見るまでもなく、今、音楽は配信サービスかライブかアナログレコードで聴くものなのだから。

■アナログレコードの面倒くささと引き換えに…

 アナログレコードの魅力として、モノとしての迫力というのはもちろんある。しかし、その迫力こそが、CD登場当時、とても邪魔だったのだ。場所を取る、重い、埃が付きやすい、聴くのに手順が面倒、などなど、アナログレコードの面倒くささに、ほとほと嫌気が差していた私たちは、音質が劣化するのは承知の上で、わざわざカセットテープに録音して聴いていた。カセットテープなら、10本持ち歩いてもどうということはないが、アナログレコードは10枚持ったら、重くてたまらない。好きなところで気軽に音楽が聴きたかった私たちは、その可搬性と引き換えに、音質を捨てたし、レコードジャケットという美しいアートも捨てた。

 CDが登場して、どうかするとカセットテープよりも解像度が低い音に対して、しかし、ヒスノイズがなくクリアな音質と、好きな曲にダイレクトにアクセスできるランダムアクセス機能の便利さにあっさり魂を売った。簡単にデジタル化してiPodに取りこめるのも嬉しかった。

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■「持ち歩く」音楽と「わざわざ聴く」音楽

 しかし、今、CDレベルの音質で良ければ、ネット配信で簡単に手に入る。手に入るどころか、月々1000円程度で、ありとあらゆる音楽が聴き放題。その状況でCDを買う意味は限りなく薄いが、そういうバックボーンがあれば、アナログレコードの欠点が、ことごとく魅力へと反転する。持ち歩く音楽はスマホでいいなら、所有する音楽は、モノとしての迫力、充実感があるアナログレコードがいいに決まっている。聴くための面倒な手順も、「わざわざ聴く」という楽しみになる。もちろん、今なら、アナログレコードからのデジタル化も難しくない。

 もちろん、それではメガヒットには繋がらない。でも、元々、音楽なんてそんなに売れるものではないのだ。大好きな曲が千曲単位で存在する私のようなマニアは、そう何人もいない。しかし、今、音楽を買うというスタイルの中で、もっとも贅沢で、しかし必然性があるのはアナログレコードだけなのだ。ならば、売れる分だけ作れば十分ビジネスになる。ジャケットに凝ることもできる。

■デジタルに追いつかれない音質

 何より、音が良いのだ。私たちが、かつて便利に負けて捨てた「音の良さ」は、未だにデジタルに追いつかれないまま、変わらずにアナログレコードの中にある。ハイレゾが、音の解像度を上げる規格なのも、無段階に音が上がり下がりする特性や、高音域も低音域も、可聴周波数を超えて、無駄とも思えるデータ量を持っているアナログレコードに少しでも近づこうとしている技術だからなのだ。

 ハイレゾがアナログレコードに比べて優位なのは、ノイズの無いクリアな音だというだけで、他では今のところ、アナログレコードを超えることはない。ならば、特別な一枚を、ハイレゾで買うのかアナログレコードで買うのか、選ぶまでもない。値段は同じくらいならば、モノとしての迫力やジャケット、歌詞カード、モノの重み、音そのものを物理的に持っているという満足感が得られる方を選ぶ人の方が多いのは当然だろう。

■まるで自分がレコード屋みたいな時代の訪れ

 かつて、沢山の音楽を聴こうと思うと、アナログレコードを沢山買うしかなくて、しかし、そんな事は誰にでも出来る事ではなかった。貸し借りするにもレコードは大きく、しかも割れやすいから、よほど仲が良くないと貸したくないし、借りるのも怖かった。好きな音楽を友人と共有するにもアナログレコードは面倒なだけだった。音楽を聴くのに大事なのは、音質やモノとしての迫力ではなかったのだ。

 それでも、本当に大事なレコードは手放さなかった。そして、時々、ターンテーブルに乗せていた。アナログレコードを手放したかったわけではなく、しかし、選ばなければならなかったし、CDはどんどん安くなった。部屋はちっとも広くならない。と思っていたら、音楽配信サービスがやってきて、まるで自分がレコード屋さんになったみたいに、好きな音楽を取っ換え引っ換え聴けるようになってしまった。

 そうなれば、もういいのだ。アナログレコードともう一度向かい合える。だから、今後は、懐かしさではなく、音の良さでもなく、音楽を刻んだ盤として、アナログレコードで聴きたい音楽は、アナログレコードで聴ける、そういう時代になって欲しいと思う。しかし、アナログ時代の名盤でCD化されてないし配信もされていないものが山ほどあるのはどうしてくれる、と思わないでもない。

文=citrus 納富廉邦