「待機児童ゼロ」は住みやすいまちと限らない!? 『住みたいまちランキングの罠』

暮らし

2018/5/5

『住みたいまちランキングの罠』(大原 瞠/光文社)

 数々のメディアで「住みたいまちランキング」が特集されるようになってから久しい。こうした背景には「保育園の入園審査落ち」「地方都市の治安悪化」などが大きく報道されていることが挙げられる。マイホームを建てたり、一人暮らしを始めたりする際、できるだけ平和な環境を求めるのは当然の発想だ。また、地方自治体が過疎化に歯止めをかけるため、自主的にまちの魅力を発信するようにもなった。「子育てに向いている」「公共施設が充実している」「迷惑施設がない」などのPRポイントは「住みたいまちランキング」でも重要視されている。

 しかし、「住みたいまちランキング」は鵜呑みにしていいほどの信頼性があるのだろうか? 『住みたいまちランキングの罠』(大原 瞠/光文社)は、一見「街の魅力」に思える要素を、違う角度から分析していく書籍である。読者は、人気のまちに隠された問題や、不人気のまちの知られざるメリットに気づかされるだろう。

「住みたいまち」を選定するとき、高確率で基準になるのが「待機児童の数」だ。事実、横浜市や川崎市では「待機児童ゼロ」を選挙公約に掲げた市長が当選した過去もあり、子供がいる家庭にとって「保育園にわが子が入れるかどうか」は見逃せない問題となっている。しかし、著者は両市の不動産価格水準が都内より安かった点で、「もともと住みやすいまち」だったと指摘する。

そこで、さらに子育てがしやすいという宣伝効果が加わってしまったため、待機児童ゼロ達成が宣言されるのに前後して子育て世代がいっそう流入し、ゴールはまた遠のいてしまうという、いたちごっこの繰り返しになっています。

 皮肉なことに、「待機児童ゼロ」を求めて引っ越してきた家族が、新たな待機児童を生み出しているのである。少しでも待機児童を減らすためには、認可外保育園(特に準認可保育園)を積極活用する風潮を生み出したほうが効率的だ。認可外保育園は認可保育園に比べると、保護者の要望が聞き入れられやすいメリットもある。しかし、世間一般の「認可保育園信仰」に応えるため、自治体は認可保育園の規模拡大に重点を置きすぎているのが現実だ。真の「住みやすいまち」を見極めるには、待機児童数だけではなく準認可保育園の現状にも注目するべきだと著者は述べている。

 図書館やスポーツ施設が充実していることを「住みやすいまち」の条件としているランキングも多い。ただ、実際に、そういったまちに移住したとして、公共施設をどの程度利用するのかは個人差があるだろう。「図書館の蔵書数が多いと子供も本好きになる」という意見もあるが、そもそも家庭で本に親しませる指導を行っていないと子供は図書館に足を運ばないともいえる。結局、「公共施設の充実」と「住民の満足度」の関係は不明なままだ。むしろ、本やスポーツに興味がない住民の税金が施設に投入されていることを理不尽に思う人もいるだろう。

 工業地帯から企業が撤退し、かわりにマンションや住宅街が建設される状況を好意的に見る風潮もある。しかし、企業が払っていた固定資産税がなくなるため、自治体は赤字に近づいてしまう可能性が生まれてしまう。また、工場地帯の不動産価格は安くなるうえ、実際には騒音や悪臭対策が徹底されていて特に暮らしにくさを感じる機会もないという。可燃ごみ清掃工場の周囲にいたっては、熱を再利用した温水プールなどが立ち並ぶ「パラダイス」のような場所もあるほどだ。

 そのほか、「住みたいまちランキング」上位常連の吉祥寺、京都の現実、「ガラの悪いまち」と思われがちな足立区、川崎市の意外な面などが本書では紹介されている。世の中に勝手なイメージだけで流通してしまった「住みやすいまち」があふれる中、家選びに新たな視点をもたらすガイドブックとしておすすめである。

文=石塚就一