17人が死亡。毒殺大量殺人事件の犯人とされた男は自殺……真犯人は誰? 恩田陸『ユージニア』

文芸・カルチャー

2018/10/18

『ユージニア』(恩田陸/KADOKAWA)

 殺人事件が起こった。――犯人は誰なのか。本来なら、それを追及するのが推理小説の楽しみであり、目的だろう。だが、『ユージニア』(恩田陸/KADOKAWA)にとって、それはあまり重要ではない。

「犯人はお前だ!」からの、殺人動機を崖の上で吐露、涙の逮捕……という一連の流れはなく、非常に「グレー」なまま、およそ400ページのミステリー小説は終結する。しかしそれでも面白いのだから、多分私は、すっかり本作の世界観にハマっているのだろう。

 もちろん、まったく何も分からないわけではない。だが、手が届きそうで届かない、なんとも言えない「はがゆさ」がある。明瞭な殺意や殺人動機のないことが、本作の底知れない異常性を引き立たせているのではないだろうか。

 数十年前、とある雪国の名家で、凄惨な殺人事件が起こった。酒屋に扮してやってきた一人の男。彼が渡した酒瓶の中には、毒が入っていた。それを飲んだ一族、お手伝い、その他、居合わせた者を含め17人が死亡した。地域の住民たちに慕われていた名家を襲った悲劇。犯人は後に判明したが、彼は殺された人々と何の接点もなく、また自殺してから発見されたため、本人の口から動機を聞くこともできず、この事件は幕を閉じていた。

 生き残ったのは、名家の子どもで盲目の少女一人。現場で彼女は、家族や大勢の人が猛毒にもだえ苦しみ、死んでいく様に居合わせる。彼女は何を想い、今、どうしているのか。また、現場には詩のような謎の文章が残されていた。そこに書かれていた「ユージニア」とは、一体何を意味するのか――。

 謎多き悲惨な大量殺人事件の真相に迫るべく、当時の「真実」を関係者たちが語り始める。事件を追っていたが、今は定年退職している刑事。家政婦の娘。事件のカギを握る古書店の店主……。

 それぞれの証言がジグソーパズルのように集まり、導き出された「真相」は、既に述べた通り、完成はしない。ただ、読者を深い闇の中へ迷い込ませるだけである。

 本作はネット上に様々な「考察」が書かれているので、私もそれらを参考にしつつ、自分なりに「真犯人」について考えてみたのだが、明確な答えは出なかった。読み込みが足りないこともあるだろうが、結局何度読んでも、本作の「すべて」を理解することは永遠にできない。これはそういった物語なのではないかとも思う。

 ネタバレが特に厳禁な作品なので、衝撃を受けたことや、言葉を失った展開などをご紹介できないのだが、ひとつだけ書かせてもらうと、私は毒入りの酒瓶を運んできた(後に犯人とされたが、自殺していた)男性が、事件当時「黄色い雨合羽」を着ていた、その「意図」が分かった時、なんだか一番ゾッとした。

 読む人によってこういう「ゾッ」とか、激しく心を揺さぶられる箇所は異なると思うので、ぜひ何度も読み返してほしい。……そして考察を書いてくれたら嬉しい。

文=雨野裾