〆切の後にも、物語がある――奥付に載らない裏方たちの奮闘記

文芸・カルチャー

2018/5/10

『本のエンドロール』(安藤祐介/講談社)

 近年、出版業界を舞台にした小説が増えている。その多くは、作家や編集者などの“本の中身”を作る人々を主人公に据え、本が売れない時代に、少しでもいい本を世に送り出そうと奮闘する物語だ。彼らは、“いい本”を作るために苦悩し、ときには〆切を破りながらも、渾身の原稿を完成させる。そして、最後には編集者が印刷会社の担当者に平謝りしながら入稿し、なんとか一件落着…という展開がお決まりだ。

 しかし、私はこうした物語を読むたびに「スケジュールが遅れた印刷会社の人はこれからどうするんだろう…?」と気になっていた。紙の本をこよなく愛する読者であっても、そうした印刷会社の仕組みや、そこで働く人たちの思いを知る人は少ないだろう。本稿で紹介する『本のエンドロール』(安藤祐介/講談社)は、そんな彼らの知られざる情熱を垣間見ることができる小説だ。

 主人公の浦本は、中堅印刷会社の営業。系列の大手出版社の編集部に出入りし、新しい受注を獲ることが主な仕事で、著者や編集者の要望を現場の職人たちに伝えるパイプ役でもある。しかし、彼は“いい本を作る”という理想を追い求めるあまり、出版社の無茶な要求を安請け合いしてしまい、そのしわ寄せは実際に印刷を行う現場に集中していた。そのため、現場で働く野末(のずえ)からは、顧客の要望をただ伝えるだけの“伝書鳩”のようだと言われてしまう…。

 本作では、浦本が担当する5冊の本を通じて、現代の印刷会社が抱えるさまざまな苦悩がリアルに描かれる。こだわりの強いデザイナーからの度重なる仕様変更、短縮された納期でも当たり前に求められる正確さ、おまけに市場は空前の読書離れと電子書籍化のダブルパンチ。そんな状況の中で、営業である浦本に何ができるのか。野末たちとのぶつかり合いを通じて、彼は理想を語るだけでなく、それを叶えるための力を持った営業マンへと成長していく。

 確かに、紙の本を造る仕事は、これから緩やかに衰退していくのかもしれない。それでも、その沈みゆく船を沈ませないために、戦っている人たちがたくさんいる。この本の“エンドロール”をみたとき、登場人物たちの思いが物語から飛び出して、私の中の“現実”になった。

文=中川 凌