悲しすぎる自傷行為の理由に涙…娘が父親を刺殺しなければならなかった動機とは?

文芸・カルチャー

2018/7/9

『ファーストラヴ』(島本理生/文藝春秋)

「なぜ、娘は父親を殺さなければならなかったのか」という強烈なインパクトの帯の『ファーストラヴ』(島本理生/文藝春秋)は、心の再生をテーマにしたミステリー小説である。

 物語はアナウンサー志望の女子大生・聖山環菜が実の父親を刺殺したことで、幕を開ける。環菜はキー局の2次面接を途中で辞退し、画家の父親・聖山那雄人が講師を務める美術学校を訪ねた。その後、女子トイレで犯行に及び、血まみれの姿で夕方の多摩川沿いを歩いていたところを逮捕されたのだ。

 そんな彼女の心を理解しようとするのが、主人公の真壁由紀である。優秀な臨床心理士である由紀は出版社の依頼を受け、環菜の半生を臨床心理士の視点からまとめるべく、彼女と面会を行った。

 しかし、逮捕された彼女は極悪非道な殺人者には程遠く、「私の本心なんて語る価値のあるものじゃないと思います」とつぶやきながら、自分自身でもなぜ事件を起こしてしまったのかを知りたがった。

「お願いです。私を治してください。私をちゃんと罪悪感がある人間にしてください」

 そう語る環菜の腕にはたくさんの自傷行為の跡も見られた。果たして、彼女はどんな動機で凶行に走り、なにを“治して”欲しがっているのだろうか。悲しすぎる自傷行為の理由、そして彼女の心の闇を知ったとき、読者はきっと涙なしにはページがめくれなくなるはずだ。

■誰かに向き合ってもらえることが強さになる

 ずっと心の中に押し殺してきた気持ちを吐き出せる場所や理解してくれる人がいることで、人は強くなれる。そのことを教えてくれる本書は、単なるミステリー小説ではない。

「私が全て悪い」「私には価値がない」――そう繰り返す環菜のように自己肯定感が持てなかったり、自分で自分を罰してしまったりする人は意外に多いのではないだろうか。

 実は筆者もそのひとりで、小さい頃、泣いていると「どうしてそんなくだらないことで泣いているんだ」と父親にあきられ続けた結果、泣けなくなり、仮面のような顔が張り付いてしまったことがあった。そんな筆者の心を救ってくれたのは、ある人がくれた「涙はその人が一生懸命に頑張った証だから、泣いていいんだよ」という温かい言葉だった。

 こんな風に、心がこもった言葉を貰えたり、ありのままの姿を受け入れようとしてくれる存在がいたりしてこそ、人は生きていけるのだと思う。環菜が行った凶行はまともではなく、自傷行為は一見、メンヘラのように見えるかもしれない。しかし、その裏には異常者やメンヘラという一言では片づけられない心の闇が潜んでいる。そんな闇は、誰かが心から向き合ってくれてこそ、振り切ることができるのだ。

 現に、自身も問題を抱えた家庭で育った由紀は理解ある夫や共感できる暗い過去を抱えていた義弟・迦葉との出会いによって、自分の心を侵食していた闇を照らすことができた。人は人と関わることで成長でき、自分らしく生きていける。そう教えてくれる本書は、傷ついた過去を背負い続けている方にこそ、読んでほしい魂の物語でもある。

今を変えるためには段階と整理が必要だ。目に見えないものに蓋をしたまま表面的には前を向いたようにふるまったって、背中に張り付いたものは支配し続ける。なぜなら「今」は今の中だけじゃなく、過去の中にもあるものだから

 この由紀の言葉が心に刺さった方は島本氏の表現力を噛みしめながら、本当の自分としての生き方を模索してみてほしい。

文=古川諭香