ヨシタケシンスケ最新絵本『みえるとかみえないとか』 見えているものは「みんな一緒」より「少し違う」ほうが世界はおもしろい!

文芸・カルチャー

2018/7/12

『みえるとかみえないとか』(著:ヨシタケシンスケ、監修:伊藤亜紗/アリス館)

 思えば幼い頃から「普通ってなんだろう」と考え続けている。考え続けている、というよりは反発心に近い。「なんでそういうことするの!」「どうしてちゃんと普通にできないの!」と怒られるたび「……普通にしてるんだけどなあ?」と理不尽に虐げられている気がしてふてくされた。それが表面化して「反省してんのか!」とさらに怒られるところまでがデフォなのだが、“普通”の押し売りに辟易している人は世の中、多いのではないかと思う。そういう大人たちと、子供には自由で広い心をもってほしいと願う親たちにはおすすめのヨシタケシンスケさんの新作絵本『みえるとかみえないとか』(監修:伊藤亜紗/アリス館)だ。

 絵本は、地球人の男の子がある惑星にたどりつくところから始まる。その惑星の住人は前も後ろも一度に見ることができるらしい。宇宙人は男の子に言う。「え!? キミ、うしろがみえないの?」「かわいそう!」「背中の話はしないであげようね」「(歩けないかもしれないから)みんなよけてあげてー!」。

 見え方が違うというだけで、ずいぶんな気の使われようである。だがこれまで巡った惑星のどこでも、男の子は“あたりまえ”の外側にいた。あしのながーい人の星でも、空が飛べる人の星でも。当たり前の基準が違う場所で生きていくのはとても不自由で居心地が悪い。そんななか、男の子は“生まれつき全部の目が見えない”人に出会う。その人には世界がどんなふうにみえているのか……。男の子は語りあううち「みえないからできないこと」があると同時に「見えないからこそできること」もあるのだと気づいていく。

 本作の監修にあたっている伊藤亜紗さんは、視覚障害者の世界の“見え方”を研究している。もともと生物学者になりたかったそうだが、DNAや遺伝子という情報ではなく、より大きな視点で「生物から見た世界」を研究するために美術の道へ転向。今に至っている。ヨシタケさんがいつも描く“なぜ?”と“世界がこうだったら面白いのに”のまなざしに彼女の視点がくわわることで、目の見えない人にとって“普通”で“理想”の世界のありようがとても興味深く描かれる。その世界で自分はスタンダードではないかもしれないけれど、すごく楽しいんじゃないかと思わされるのだ。

 男の子はやがて気づく。そもそも人というのは、少しずつ何かが違っているのだから、ひとつとして“同じ世界”なんてないのだということを。見える、見えないは何も視覚障害の話だけではない。人によって見えている世界は、そもそも違う。誰かと「一緒だね」と共感しあって暮らすのはとても安心だけれど、違う人を「へ~そうなんだ!」とおもしろがる心があれば、倍以上に楽しくなれる。「なんで違うの!」ではなく「そんな違いがあるんだね!」と思うことさえできれば、みんな自由に生きていける。

 とはいえ、言うはやすし。普通ってなんだよ! と反発しながら、自分は「なんでわかんないんだよ!」と他者に憤ることもあるのが現実だ。だが少しでも「違うっておもしろい」という気持ちを持っていれば、自分にも誰かにも今より優しくなれるような気がするのである。

文=立花もも

目の見えない人は世界をどう「見て」いるのか?