人気妖怪絵巻シリーズ第2部が完結! 喜蔵の想いの結末は――。『一鬼夜行 鬼の嫁取り』刊行

文芸・カルチャー

2018/7/12

『一鬼夜行 鬼の嫁取り』(小松エメル/ポプラ社)

 小松エメルの妖怪小説『一鬼夜行』シリーズ(ポプラ社)最新刊となる『鬼の嫁取り』が刊行された。第1巻にして小松エメルのデビュー作となった『一鬼夜行』が出たのは約10年前、本作が10巻目となる同シリーズはすでに累計30万部を突破し、多くのファンを抱える人気シリーズとなっている。

 物語の主人公となるのは、浅草の古道具屋「荻の屋」の主人である喜蔵とそこに居候する少年の小春。この愛らしい容貌をした少年は、ある夏の晩に空から荻の屋の庭先に降ってきた。彼は夜空を進む百鬼夜行からはぐれた“鬼”だったのである。一方の喜蔵は妖怪たちが怖がって逃げ出すほどの閻魔顔で、おまけに無愛想の人間嫌い、とても捻くれた性格の持ち主だ。ふたりは互いに文句を言いながらも一緒に住むことになり、次々と奇妙な妖怪沙汰に巻き込まれていくことになる。

 第1巻『百鬼夜行』から常に描かれてきたのは、小春と喜蔵の関係の変化と成長だ。最初はいがみ合っていたふたりは、遠い過去からつながる自分たちの因縁を知り、やがて誰よりも互いを信じ合う絆で結ばれていく。口では相変わらず文句を言っていても、魂は通じ合っている――そんなふたりの種を超えた友情が、このシリーズに多くのファンを惹きつける大きな魅力となっている。そして、小春と喜蔵を取り巻く世界の広がりもまた長いシリーズものならではのお楽しみ。喜蔵の生き別れの妹だった深雪、喜蔵の幼馴染の彦次、硯の精をはじめとする荻の屋の付喪神や妖怪たち、裏長屋に住む喜蔵の想い人の綾子、河童の女棟梁・弥々子、喜蔵を気に入ってちょっかいを出してくる強大な力を持った妖怪・百目鬼――個性豊かなキャラクターたちによって作り上げられる“一鬼夜行ワールド”に読書を通じて入り込み、その独特の世界観を堪能することも同シリーズの醍醐味だ。

 最新刊『鬼の嫁取り』は、永遠の命を授けるといわれている妖怪アマビエが再び出現したことが物語の幕開け。喜蔵と小春は河童の弥々子が根城にしている神無川で、河童たちの“アマビエの鱗”探しを手伝うことになる。その帰り道、喜蔵は綾子が額に傷のある男に恫喝されているのを目撃。傷の男は仲裁に入った喜蔵に向かって「悪いことは言わん。その女は諦めろ」と告げる。類まれなる美貌の持ち主である綾子は、かつてより大勢の人間を殺めてきた飛縁魔という妖怪の依代となっていて、傷の男はそれを咎めている様子。そこに突然、妖怪・百目鬼が現れる。親しげに傷の男に声をかけ、綾子を挑発するかのような百目鬼の姿を見て喜蔵は動揺する。一方、河童の弥々子の態度に不審なものを感じた小春は、旧知の妖怪かわその力を借りて、河童たちの動向を探ることに。やがて、事態は綾子の過去から続く因縁と水の怪たちを巻き込む大騒動へ転がっていき、小春にも大きな変化が――。

 喜蔵の綾子に対する想い、飛縁魔と傷の男の過去、永遠の命を授ける妖怪アマビエを求める妖と神の争い、妖力をほとんど失った小春の新たな変化、さまざまな要素が絡まり合って展開していく物語は、どのように“鬼の嫁取り”へと導かれるのか。その過程で描かれる人間と妖怪、それぞれの心情の揺れ動きが、物語をドラマチックに盛り上げていく。本作はシリーズ第2部の完結編。喜蔵の想いが決着を迎えるクライマックスは、多くのファンの期待を裏切らないものになっているはずだ。

文=橋富政彦