夕方の神社には“アレ”が出るのでお参りはご法度。宮司が聞いた神社にまつわる怖い話

文芸・カルチャー

2018/8/11

『神恐ろしや』(三浦利規/PHP研究所)

 夏の風物詩のひとつといえば、身の毛もよだつほどの怖い話や怪談。本当かどうかという真相はさておき、およそこの世の者とは思えない幽霊の話であったり、いわくつきの場所で巻き起こる現実離れしたエピソードの数々は、時に、いや、しばしば鳥肌が立つほどの薄ら寒さをもたらしてくれるものだ。

 怖い話や怪談といったものは、語り手がどのような人物であるかによっても説得力が大きく変わってくるところだが、どことなく畏怖される場所・神社の宮司が著した『神恐ろしや』(PHP研究所)は、さまざまな怪談本があるなかでも異質な1冊だ。秋田県・伊豆山神社の宮司である三浦利規さんが、神職を通して知り得てきたという数々のエピソードは、どれも独特な不気味さをかもし出している。

 そんな本書の中から、東京都台東区にある“鳥越神社”を舞台に、ひとりの女性が謎の死を遂げたエピソードを紹介してみたい。

◎夕方神社に行ってはだめ――その理由は

 服部美樹さん(仮名・26歳)は劇団メンバーであるかたわら、浅草のスナックでバイトをしていた。昼間は芝居の稽古、土日以外の夜にバイトをしていた美樹さんには、スナックへ向かう夕方5時頃に鳥越神社でお参りをするという日課があった。

 そんなある夜、美樹さんの働くスナックに、沖縄の民間霊能者・ユタの血を引くと思われる女性の占い師が現れた。スナックのママの友達だという占い師はその夜、女性客と2人でカウンターに座っていた。

 ビールを出した美樹さんと「店に来る前、鳥越神社にお参りしてるんだって?」と、気さくな会話を続けていた占い師。しかし、美樹さんが「昼間劇団の稽古がない日は、必ず5時ぐらいにお参りしてから店に来るんですよ」と返したとたん、途端に怖い顔つきになった占い師は「夕方神社に行ってはだめ。夕方はやめなさい!」ときつい口調で答えた…。

◎“見える人”を不幸にするという魔物の正体

 後日、改めて美樹さんはその理由を尋ねた。占い師によれば「日暮れ時は神社に魔物が現れる」のだという。神社に祀られた龍神さまや神さまが目を光らせている昼間は、魔物が寄ってこない。しかし、龍神さまや神さまが自分のお社に帰る頃、つまり夕方に、その隙を狙った魔物たちが、神社に満ちている“ご神気”を取り込んで魔力を上げようと寄ってくるのだという。

 そして、占い師は「人には“見える人”と、“見えない人”がいる」と続けた。何でも、魔物は「見た者にとり憑いて、容赦なくその人を不幸にしてしまう」というのだ。夕方にお参りをしていても、何も起きないという人は魔物がたまたま見えていないだけに過ぎず、美樹さんを案ずる占い師は「とにかく夕方神社にお参りしてはいけない、これは昔から言われてきたことだから、守ったほうがいいわよ」と忠告した。

 その夜、占い師の言葉を受けた美樹さんは、酒の酔いもすっかり覚めて、青ざめてしまったのだという。

◎黒い“何か”を見てしまった女性は――

 やがて新年を迎えたある日、美樹さんは同僚のホステスに「見たの、私…」と打ち明けた。「え、何を見たの?」と返す同僚。すると美樹さんは「鳥越神社で魔物を見たの…」と続けた。

 占い師に忠告されてからも、実は美樹さんは日課として夕方のお参りを続けていた。しかしある日、境内から鳥居へ向かうまでの間に黒い“何か”がサッと、自分の脇をすり抜けるのを見たのだという。不安を打ち明けた美樹さんであったが、その身を案じた同僚やスナックのママのはからいで、それから2日後の昼間に占い師によってお祓いが行われることになった。

 しかし、同僚に“魔物”を見たかもしれないと打ち明けたその日の夜、美樹さんは亡くなった。

 彼女が住んでいたマンションの住人の目撃証言によれば、最上階である7階のベランダから飛び降りたのだという。彼女の手には鳥越神社のお守りが固く握られていたのだそうだ――。

 果たして彼女が見たという“魔物”は本当にいたのだろうか。飛び降りる間際、住人によれば美樹さんは何度か室内を振り返っていたのだという。美樹さんが亡くなった今、死の真相を探ることはできないが、いずれにせよ、心のどこかにどんよりとした気持ちを残すエピソードである。信心深い皆さんも、日暮れ時の神社参りには気をつけたほうがいいかもしれない…。

文=カネコシュウヘイ