性風俗のトップに君臨する、レジェンド・ソープ嬢とは?

エンタメ

2018/9/22

『吉原 伝説の女たち』(石井健次/彩図社)

 華やかさもあれば危険性も高いのが、エクストリームスポーツ。ならば、容姿の華やかさに加え、特殊テクニックをマスターしたセックス・スキルが必須で、コミュニケーション力やおもてなし力に経営者マインドまでもが要求される現代の花魁(おいらん)、「ソープランド嬢(以下、泡姫)」という仕事は、まさにエクストリームビジネスのように思えてくる。

 ただし、泡姫にもいろんなランクがある。あれこれとスキルを要求されるのは、かつて太夫、花魁と呼ばれたエリートたちであり、現代で言えば、高級店に在籍する高級泡姫たちだ。

 その中でもトップに君臨する「レジェンドたち」とは、いったいどんな女性たちなのか。それを教えてくれるのが、『吉原 伝説の女たち』(石井健次/彩図社)だ。

 本書には、吉原(東京都台東区千束四丁目周辺のソープランド街)の現役・退役泡姫の中でも、レジェンドと呼ばれる12名と、店長としてレジェンドを育てた男性が登場する。そして、ソープランドの概略説明や、江戸時代に始まった吉原遊郭にまつわる歴史コラムなどを織り交ぜながら、過去から連綿と続く吉原という異界の今昔物語が描かれる。

■泡姫は風俗店従業員ではなく、経営者(個人事業主)

 現代の泡姫になぜ経営者マインドが必要なのか、まず、そのことに触れておこう。本書によれば、泡姫はお店の従業員ではない。お店から部屋を借りている個人事業主だ。

 入店した客は入浴料金を店に払い、部屋で泡姫の収入となるサービス料を払う。泡姫は、部屋で使う備品類を自分で調達しなければいけないし、「お茶を引いたら収入はゼロ」(お茶を引く=客が付かないこと)という厳しい世界。それだけに指名客を確保するまでは、集客戦略もしっかりと自分で練らなければいけない。そのためお店では、秘技や心得が伝授される「講習」を用意する。それを受けるか受けないかも、泡姫自身が判断することになる。

 そんな彼女たちレジェンドの「生き様、考え方、心意気を通して、吉原という街の真髄を感じていただければ望外の喜びである」と著者が記すように、本書には、吉原遊郭の伝統の名残りである、日本人固有の「粋の文化」を、現在の吉原とそこで生きる女性たちに求めようとする視点が色濃く反映されている。

 そのため5つほどの各コラムは、かつての遊郭のしきたりや遊女像、男性客像を、古い文献や古典落語から引用して伝えるなど、コラムと呼ぶには文章量もあって中身も濃い。この点は賛否分かれるだろうが、筆者のように吉原文化を歴史的に考察してみたいと思っていた輩にとっては、別の資料を入手する手間が省けるためありがたいところだ。

■吉原という昔ながらの異界を「粋」に楽しむ

 そして、登場する現役嬢はレジェンドという風俗界の勝ち組であり、語られる内容も、一部、生い立ちに触れるケースもあるが、多くは仕事のやりがいやプライド、覚悟、自分なりの不文律、最高のサービスを提供するための奮闘努力エピソードなどが中心だ。

 社会弱者としての風俗嬢のリアルや仕事上のリスク、また、彼女たちの秘技の生々しい描写などは別の本に期待をしよう。本書はいわば、吉原文化の歴史を学びつつ、レジェンドたちの人柄やメッセージに触れ、吉原を「粋に楽しむ」ための本なのである。

 例えば本書には、高額料金を取るのに、客に迎合せず許可なしには「キスさせない、体に触れさせない」といったポリシーを貫き、自身の商品価値を「高嶺の花」にすることでレジェンドとなった泡姫が登場する。客の金の渡し方が気に入らなければ、金を突き返してでも人の道における礼儀というものを教える。

 著者によれば、彼女の高飛車な態度こそ、かつての誇り高き花魁の姿そのものだという。そして、そんな泡姫に対して「こっちは客なんだぞ」と怒るのは無粋の極み。「これぞ吉原の泡姫」と礼賛できてこその粋な遊びとなるという。

 他にも看護師からの転職組など、十人十色の泡姫たち。彼女たちのストーリーを楽しむもよし、接客業における人心掌握術の書として読むもよし。吉原という異界をのぞいてみたい方は、ぜひ、本書を手にしてみてほしい。

文=ソラアキラ