時空を超えて巡り合う奇跡──話題作、待望の続刊!『また君と出会う未来のために』

文芸・カルチャー

2018/10/22

『また君と出会う未来のために』(阿部暁子/集英社)

 どこか遠くへ行ってしまえたらいいのにと、思春期などとっくに過ぎた今でも考える。もしかすると本を読む人は、似たような気持ちになることがあるかもしれない。ここではないどこかへ行けば、自分を苦しめるものから逃れ、心安らかに過ごせるはずだ。ある種の現実逃避として、わたしたちは物語のページを開く。

 どうやら本シリーズの登場人物も、同じようなことを考えていたらしい。

『どこよりも遠い場所にいる君へ』(阿部暁子/集英社)の主人公・和希は、離島の高校に通う高校1年生。島で唯一の高校は、全国から生徒を受け入れる寮を備えており、和希もその男子寮の一員だ。島での穏やかな暮らしに身を置きながら、しかし彼の胸のうちには、いつも黒いものが渦巻いていた。

 そんなある日、和希は「神隠しの入り江」と呼ばれる場所で、身元不明の少女と出会う。1974年から逃げて来たと言う彼女を信じたのは、「おれも、ここに逃げてきたから」。とある秘密を抱えた彼は、どこにも逃げられないと知りながら、それでも遠くに行きたくて、その島へとやってきたのだ。

 その4年後が舞台となる『また君と出会う未来のために』(阿部暁子/集英社)の主人公・爽太も、「逃げた」記憶を持つ人物だ。大学生の爽太には、人に言えない過去がある。小学3年生のとき、1カ月半ものあいだ、行方がわからなくなっていたのだ。

 保護者のもとに戻った爽太は、自分がどのように生き延びてきたかを説明する。幽霊が出るという海に入って溺れたはずが、気がつくと約60年後の未来、2070年にいたこと。年上の女性に助けられ、匿われるように過ごしたこと。つらい現実と向き合わずに済む生活は平穏で、過去へなど戻れなくてもかまわなかった。

 だが、そんな体験を話しても、誰も信じるはずがない。だから爽太は、未来で出会った彼女への想いをおさえ込み、他人に対して心を閉ざした。その10年後、アルバイト先のつながりで、「過去から来た人に会ったことがある」と言う和希と知り合うまでは。

 本シリーズの主人公たちは、時空を超えて大切な人との別れを経験する。出会わなければそのほうがいい、そう思える一面もたしかにある、そういう選択をすることもできる。それでも、彼女と過ごした短い夏は、出会わなければありえなかった。「出会わないことが正解だなんて、俺はそんなの絶対に嫌だ」──力強く言い切る爽太と、その言葉に救われる和希。2人の青年の決断が、清々しく胸を打つ。

 青春を描く物語は、夏の海のようだと思う。ひとときのものだとわかっていても、そのまぶしさに魅了され、飛び込まずにはいられない。打ち寄せる波に触れて得るものは、背を向けて逃げるのではなく、流されていくのでもなく、自分の手で水をかいてこそ、目的の地を踏めるのだという実感だ。

 本を閉じ、わたしたちは虚構の世界から戻ってくる。まぶたの裏には、夏の海のきらめきだけが残っている。知らなければ焦がれることもないだろうその輝きに、わたしたちもまた、巡り合うことを望んでいる。

文=三田ゆき