緊張感120%の傑作ホラー! “あれ”からは決して逃れられない……映画『来る』の原作

文芸・カルチャー

2018/12/5

『ぼぎわんが、来る』(澤村伊智/角川ホラー文庫)

 12月7日に全国公開が予定されている映画『来る』。監督に『嫌われ松子の一生』『告白』のヒットメーカー中島哲也を迎え、岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡ら豪華キャストが共演を果たすこの作品。意味ありげなタイトルやショッキングな予告編動画から「一体どんな話なのだろう?」と気になっている方も多いはずだ。

 原作は、第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』(澤村伊智/角川ホラー文庫)。選考委員各氏が「文句なしに面白いホラーエンタテインメントである」(綾辻行人)、「恐怖を現在進行形で味わうことができます。迷わず大賞に推しました」(宮部みゆき)と絶賛、多くのエンタメ小説読みを唸らせた2010年代の国産ホラーを代表する一作だ。

 物語は「訪問者」「所有者」「部外者」と題された3つのパートからなっている。「訪問者」の主人公は、製菓メーカーに勤務する会社員・田原秀樹。ある日、幸せな新婚生活を送っていた秀樹の周囲で、不穏な出来事が起こり始める。

 会社に現れた正体不明の客と、その直後に大けがを負った部下(腕には獣に噛まれたような傷がついていた)。自分や家族の名を呼ぶ不気味な電話の声。怪異としか思えない一連の出来事は、秀樹の祖父がひどく怖れていた化け物・ぼぎわんの仕業なのだろうか。祖父の家の戸口に現れた訪問者が、25年の時を経て、秀樹のもとにやって来たというのか。

 愛する家族を守るため、秀樹はオカルトライター野崎とともに、女性霊能者・比嘉真琴のマンションを訪ねる。

 これは一言でいって“怖い小説”である。一家が得体の知れない化け物に襲われる、というストーリー自体は、これまで世界中で幾度となく語られてきた古典的なものだ。なんなら平凡といってもいい。著者はそこにさまざまなアレンジを施し、アイデアを加味することで、現代人を本気で震え上がらせるホラーへと再生させたのだ。

 パーソナルスペースを侵され、見えない化け物に襲われる怖さ。自分だけではなく愛する人までも犠牲になる不条理感。“ぼぎわん”という妙に不安をそそる音の響き。霊能者でも太刀打ちのできない化け物の凶悪さ――。世にホラー小説は数あれど、ここまで怖さに重点を置いた作品はお目にかかれるものではない。

 まずは騙されたと思って、冒頭の数ページを読んでみてほしい。少年時代の秀樹が灰色の人影と遭遇する回想シーンが終わる頃には、あなたの心は恐怖の爪にがっちりと掴まれているはずである。

 なお、物語の第2パート「所有者」では秀樹の妻・香奈が、第3パート「部外者」ではライターの野崎がそれぞれ視点人物を務める。視点が変わるにつれて、事件の新たな様相が浮かびあがるトリッキーな叙述はミステリーとしても一級品。『告白』の中島監督が目をつけたのも納得だ。とりわけ田原家の暗黒面が徐々に明かされてゆく中盤には、ホラーとはまた違った意味でゾッとさせられた。

 澤村伊智は本作で華々しいデビューを飾った後、『ずうのめ人形』『ししりばの家』と趣向を凝らしたホラーを相次いで発表。ホラーの新時代を牽引する人気作家に成長した。

『ぼぎわんが、来る』はその記念すべき出発点にして、著者のエッセンスが詰まった傑作である。まだその作品に触れたことがないという方も、今回の映画化をきっかけに“怖さ”と“面白さ”を誇る澤村作品にぜひ触れてみていただきたい。これを読まないのは、絶対に損だ。

文=朝宮運河