「三日に一度は夢に見る」高速を降りたその先で…/澤村伊智「高速怪談」【全文公開⑦】
『ぼぎわんが、来る』の澤村伊智氏による、小説の形をした怪談集『怪談小説という名の小説怪談』(新潮社)。 子連れで散歩中に見かけた怪しげな物件、語ってはいけない怖い小説、新婚旅行で訪れた土地での出来事…など、暑い夏の夜にゾクゾクする珠玉の7編を収録。 本連載では、「高速怪談」を7回に分けて全文公開! 関西方面に向け、乗り合わせて帰省をする男女5人。ひょんなことから車内で怪談会がはじまって…。ラストまで見逃せない傑作短編。
『怪談小説という名の小説怪談』(澤村伊智/新潮社)
僕の話 次のパーキングエリアに止まった瞬間、真柄さんは「洒落にならんわボケ!」と堀さんを怒鳴りつけた。窓がビリビリ震えるほどの大声で。堀さんはもちろん、僕まで座席から飛び上がった。 身体を丸めて子供のように泣きじゃくる汀さんを、石黒さんが優しく抱きしめていた。 「申し訳ありません、やりすぎました」 運転席で正座すると、堀さんは後ろに向かって深々と頭を下げた。僕は助手席で脱力したまま皆の様子を眺めていた。 石黒夫妻を残して車を降り、真っ暗な駐車場で、僕と真柄さんは堀さんに説明…