男の体を何も知らない、女ばかりの世界の秘密――。鳥飼茜初のファンタジー作品『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』

アニメ・マンガ

2019/1/20

『マンダリン・ジプシーキャットの籠城(上・下)』(鳥飼茜/KADOKAWA)

 正解など何もないこの世界で、地に足をつけ、目的をしっかり見すえて生き抜くことは、決して簡単なことではない。信じていた存在に裏切られることなど、さほど珍しいわけでもなく、誰かに期待して生きると馬鹿を見る。

 だが、人間は「孤独」に弱いのもまた事実。「あなたがいるから生きていけるの」……なんて言葉、心で思っていても、恥ずかしくて中々口には出せない。しかし、他者の存在が、このどうしようもない世界で生きる理由になるとしたら、それはとても素敵なことなのかもしれないと思うことがある。

 鳥飼茜の『マンダリン・ジプシーキャットの籠城(上・下)』(KADOKAWA)は、架空の世界を舞台に、女ばかりが暮らす日常が描かれているマンガだ。

 これまで、男女の性の不平等や、心の葛藤を描き続けてきた著者初のファンタジー作品で、本作も、斬新な視点でそれらが見つめられている。

 物語は、とあるスラム街で、佐奈田という絹糸のようにキレイな長い髪を持つはり師の女と、そこで暮らす唯一の男・麗峰が、仲間の女たちと共に、強くしたたかに生き抜いているシーンから始まる。

 彼らがその日暮らしをするスラム街は、大きな川で、都会の〈町〉と分断されていた。

 女ばかりが生きる世界は、進化のため、生殖器を用いて新しい命を生み出すことはなくなった。町は「生むことができる限られた人間」を、強制的に管理し、生命をコントロールしている。

 実は、佐奈田や麗峰は「人を生むことができる危険因子」として、町から追われ、スラムに逃げてきた身。町に戻ると酷い一生を強いられるため、スラムで暮らすことを選んだ。しかしある日、麗峰のもとに、“生命存続の使命”を持った若い女が、お客として現れるのだが……!?

 この世界の女たちは、男の体を何も知らずに生きている。仲間の女たちは、麗峰が体を売って金を稼ぐ現場を目撃し、

「あたしら女になくて―――…男にはあるなんてモノがあるの…?」

 と、ひどく驚き、男の体を見たいと熱望する。また、佐奈田は、隠されているその部分にこそ、人が生まれる理由や生きる意味があるのではと期待する。

 町の厚生局なる場所が生命をコントロールする女だらけの世界は、戦争こそ起きていないものの、歪で、とても不安定で、自由とはほど遠く、人々の心が抑圧されている社会だった。町にも秘密があり、彼らは男から自由を奪い、女が女をつくり続ける「正しさ」を守り通すことに命を懸けていた。

 だが、そんな不安定な「女だけのディストピア」の物語の結末は、とても自由で、力強い方向性を示すものである。

 人間は「我々」なんて言葉で括られる必要はないし、子孫繁栄のためだけに生きているわけでもない。生きていく意味など「ただ愛する人のそばにいたいから」で十分だし、誰かと手を取り合って生きていくことができるのなら、それはとても素晴らしいことだと感じた。

 時にとても官能的で、核心を突く言葉にハッとさせられる作品である。不安定な世の中だからこそ、自分の心と向きあって、前を向こうと勇気づけられた。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ