高齢夫婦と40歳独女、3人家族からみる“益田ミリ流”の幸せとは?
公開日:2019/1/21
幸せってなんだろう。海の幸と山の幸。幸という文字は狩りの対象。よって、幸せとは自力で獲得するものではないだろうか。お金。恋。結婚。出産。その他快楽。現代でも幸せの対象となるものは自力で獲得するものが多いような気がする。
『沢村さん家のそろそろごはんですヨ』(文藝春秋)は『週刊文春』で連載中の人気ホーム・コミック単行本第4弾だ。年をとってきた両親と40歳の娘との3人暮らしの沢村家の日常を描く。図書館通いにジム通い、定年ライフを満喫中の父・四朗(70)。社交的で料理も上手な母・典江(69)。未婚で彼氏なし、実家暮らしのベテランOL・ヒトミ(40)。長年連れ添った夫婦と40代の娘、さまざまな視点で平均年齢60歳の家族3人暮らしの生活を切り取っていく。
「すーちゃん」シリーズ(幻冬舎)や『僕の姉ちゃん』(マガジンハウス)などで日常の「ふと」を切り取り、「あるある」と共感したくなる益田節に加えて、「沢村さん」シリーズはどこかせつなさをも感じてしまう。
父・四朗は回転ずしに行った後、「若いころはもっと食べられた」と回顧。母・典江はサヤに3つ入ったそら豆を見ながら、娘が小さかったころの家族を追懐。娘・ヒトミは仲良しグループとの会話の中でふと元カレのことを思い出してしまい、いら立ってしまう。
本書からはどこか、ふんわりとした温かみが感じることができる。それは、それぞれのキャラクターが日常の中から「幸せ」を汲み上げようとする力を持っているからではないかと思う。
本書の「巡り巡って」という一編では、母・典江が洗面台に娘が忘れていったピアスを元に戻す。父・四朗は電子レンジに牛乳を入れっぱなしだった母を思い、温めなおす。娘・ヒトミはトイレの便座が上げっぱなしだった父を思い、直してあげる。そして最後にこんな一言が添えられる。
「しあわせってこういうことなのかもしれませんね」
日常の「ふと」した幸せは、相手を思いやることで獲得できるのではないだろうか。海の幸や山の幸に匹敵するほどの幸が沢村さん家の食卓には存在している。ここに気づいた者だけが、本書の趣を味わえるのだろう。
文=梶原だもの
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