どうして女子は甲子園に出場できないの? 女子硬式野球部の姿を描く『花鈴のマウンド』3つの読みどころ

マンガ

公開日:2019/2/13

『花鈴のマウンド』(星桜高校漫画研究会/大垣書店)

 性別を理由に、夢や目標を諦めたことがあるだろうか。「男なんだからやめなさい」「女には無理だよ」。安易に投げかけられるそういった言葉は、夢に向かう者の希望を打ち砕く。けれど、それは間違っていることだと思う。なにかを成し遂げるのに、性別なんて関係ない。

『花鈴のマウンド』(星桜高校漫画研究会/大垣書店)で描かれているのも、そういった性別を理由に夢を砕かれそうになる女の子の姿だ。

 本作の舞台となるのは、“女子”の高校硬式野球部。主人公の桐谷花鈴(きりたに かりん)をはじめとする選手たちは、「甲子園出場」を目標に、日々汗を流している。しかし、現在、女子の甲子園出場は認められていない。作中でも花鈴たちの前に、「女だから」という壁が立ちはだかる。

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 ところが、花鈴は決して諦めない。女子選手が甲子園に出場するという前代未聞の夢に向かって走っているのだ。果たして花鈴の夢は叶うのか――。

 そんな花鈴たちの青春物語もすでに6巻目へと突入した。そこで、本作の読みどころを3つに絞って紹介する!

■その1「少しずつ成長していく花鈴の姿」

 星桜(せいおう)高校女子硬式野球部のピッチャーを務める花鈴。しかし、その実力はまだまだ成長過程にある。事実、ライバルである京都雅高校の柊木美玲(ひいらぎ みれい)には2本もホームランを打たれ、悔しい想いをした。

 そこで花鈴を支えるのが、幼馴染であり、星桜高校男子硬式野球部の主将を務める、大門頼(だいもん らい)だ。花鈴の強い想いを知る頼は、夜な夜な自主トレをする彼女にアドバイスする。ふたりのやりとりは野球に情熱を注ぐスポーツマンシップにあふれ、また、ほんの少しだけ甘酸っぱさをも感じさせる。頼のアドバイスを受け、花鈴がどのように成長していくのか。決して天才型ではないからこそ、読者は彼女の姿に感情移入してしまうはずだ。

■その2「多種多様な登場人物によるドラマ」

 本作は野球マンガということもあり、実に大勢のキャラクターが登場する。そして、その一人ひとりにドラマが仕込まれている。

 たとえば、主人公の花鈴。彼女は養護施設にいた子であり、現在は引き取られた家で大切に育てられている。しかし、どうやら養父は重い病を患っているようで、そのことが花鈴の心に暗い影を落とす。

 また、ライバルである美玲は野球に闘志を燃やす一方で、「女子プロ野球選手になるつもりはない」と言い放つ。野球の才能を認める父親と、勉強第一を唱える母親。その狭間で彼女はなにを思うのか――。

 その他にも、頼に恋心を抱き、花鈴と距離を置こうとする女子硬式野球部主将の麻布小春(あざぶ こはる)、男性に苦手意識を持つ花鈴の相棒の清澄宙子(きよすみ そらこ)、女子硬式野球部を目の敵にするサッカー部の青山綾斗(あおやま あやと)など、あげていけばキリがないほどに個性的なキャラクターたちが物語を彩る。

■その3「幼い頃に交わした、頼との約束の行方」

 花鈴が甲子園を目指すことになったきっかけ。それは頼との幼少期の思い出にある。ふたりで初めて訪れた甲子園球場。そこで野球選手のプレー目の当たりにした花鈴は、野球そのものに魅了され、頼と「ふたりで甲子園に行こう」と指切りを交わすのだ。

 しかし、単行本第5巻で、ふたりの約束を阻むような出来事が起きてしまう。それは、甲子園出場をかけた、東東京大会決勝戦でのこと。この試合に勝って優勝すれば、念願だった甲子園へ進むことができる。花鈴との約束を胸に、頼は強豪・白狼(はくろう)ナインに挑む。

 ……が、みんなの声援を背にした頼を襲ったのは、まさかのデッドボール。投球を右脇に受け、そのまま頼は転倒。頭を強く打ってしまう。意識が混濁するなか、それでもなんとか一塁へと這い出すものの、その手は届かず、頼はそのまま意識を失ってしまう。そして、病院で意識を取り戻したとき、頼が知ったのは、白狼のサヨナラホームランを受け、星桜が負けてしまったという事実だった。そして、見舞いに来てくれた花鈴に対し、頼は泣き叫ぶ。「これでもう、お前との約束は果たせなくなった」と。

 そして、ここからが作中屈指の名シーンだ。男泣きする頼を病室に残し、花鈴はどこに向かうのか。そこで花鈴が口にした言葉とは。このシーンは号泣必至。ぜひ本作で確かめてもらいたい。

 上記が本作における3つの読みどころ。それを踏まえ、発売されたばかりの第6巻では、ドラマティックな展開が花鈴たちを待ち受けている。まさに、ここからが正念場であると言えるだろう。

 女の子だからって、甲子園出場を諦める必要なんてない。夢に向かって真っ直ぐに突き進む花鈴の姿からは、誰もが勇気をもらえるはず。本作は、夢を持つすべての人に読んでもらいたい、熱いメッセージ性にあふれた名作だ。

文=五十嵐 大