女も男も女性器のことを知らなすぎるぜ。秘密の場所を覗いて笑ってみた

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更新日:2019/3/31

『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』(リーヴ・ストロームクヴィスト:作、相川千尋:訳/花伝社)

 性の話がひと昔前に比べるとオープンになったので、セックスについて口にしても、そうとがめられることはなくなった。性教育も推奨され、「別に隠すことじゃなくね?」という風が吹く今日この頃、女性器ってどんな形か、絵に描ける? …いや、失礼。これはさすがに恥ずかしいよね。それとも、そもそもよくわからないので描けない? …うーん、そういわれるとそうなんだよね、ぼんやりとしか知らないまま生きている気がする。

『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』(リーヴ・ストロームクヴィスト:作、相川千尋:訳/花伝社)は、女性の性器にまつわるタブーを描いたギャグコミック。男性はもちろんのこと、女性自身も「えー、知らなかった」という知識について笑いながら読める。笑うといっても茶化しているのではない。なぜ女性器のことを我々はこんなにも知らないのか、という性文化のコードに切り込んだ意欲作であり、古い世代には物議を醸すかもしれない1冊である。

■女性器を直視しないできたのは、ヘンテコな医学のせい!?

 冒頭ページを開いてみよう。いきなり、「女性器が恥ずかしいものとされる」のは、「『女性器』に興味を持ちすぎている男たち」のせいだという北欧ガール(著者はスウェーデンの漫画家)の台詞。そして、次々に、人類の歴史の中で女性器がいかなる扱いを受けてきたかを紹介していくのだが、特に18~19世紀の近代医学の中でのヘンテコな扱いは、あまりにも医学全体の発展に比例していない点がなんだか怖い。例えば、オナニーが精神異常の原因になるという当時の説は、でたらめなのだが変に科学的っぽく世に響く、当時の医師により発信されたものだ。

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「現代ではありえない知識不足!」と、過去の風習を喝破しつつページを進んでいくと、だんだんと、この現代最先端医療社会を生きる自分の知識にも怪しい雲行きがただよい始める。そして、次のひと言に出くわすのだ。

“女性器の体外に現れている部分を指す言葉「外陰部」は日常会話では使われない。外陰部を指し示したいときにも、人々は間違って見境なく「ヴァギナ(膣)」という言葉を使っている”

 つまり、本来ヴァギナとは膣(子宮から体外へ通じる管)のことのみを指し、表面のひだひだのところ、あの鶏のトサカを逆にしたみたいなやつは、外陰部という別の名前なんだよということだ。

 女性にとっては、「あれ? そういえば、そうっだっけ?」程度かもしれないが、男性は結構知らないんじゃないかという気がする。保健や生物の教科書にもちゃんと載っていなかったような気がするし、メディアでは完全にぼかされてしまうエリアなので、正しい構造をよく知らずに生き続けていることに気づかされる。そもそも、どんな形が一般的なのかとか、色はみんなどんなものなのかとか、自分の性器の正常度も怪しくなってくる。

■お上品な「たしなみ」が肯定感をじゃましている?

 本書では、そういった女性自身が感じる後ろめたさについても、「なぜそう思ってしまうのか」という疑問についてきちんと説明されていて、知識とともに安心感も得られるようになっている。そして、みんなすまして生きているけど、ピュアな美しさとは言い難い(?)色形のものを持ってるんだよね、と思うと何だかとても笑えてくる。同時に、自らの体を肯定できるのは、晴れがましくもある。

 そもそも、性器に自己否定的な感情を仕向けられてしまう社会一般のルールが、本当はおかしいのかもしれない。

 他にも、某生理用品の広告文「生理中でも爽快・安心」に対して、なぜ生理を不快で、安心じゃないものとみなす前提があるのか? とつっこむなど、現代の常識に疑いを持つことで、女性器、そして女性を正面から見つめ直す本書。やはり知識は大事だとあらためて感じる。「しつけ」や「たしなみ」という名のもと、いつのまにやら自分に刷りこまれている無意識よ、私の体への肯定感をじゃましやがって、と思ってしまうのだ。

文=奥みんす