温かいマイホームに現れた「悪魔」の正体に恐れおののく! 史上最恐のおぞましいミステリーとは…

文芸・カルチャー

2019/4/14

『スイート・マイホーム』(神津凛子/講談社)

 家族の幸せを願って購入する“夢のマイホーム”には希望が詰まっている。しかし、もし“まほうの家”という魅惑的なキャッチコピーが付けられたモデルハウスに出会ってしまったら、命を諦めることになってしまうかもしれない。史上最恐のスリルを感じさせてくれる『スイート・マイホーム』(神津凛子/講談社)は、イヤミス(嫌な気分になるミステリー小説)を超えた、オゾミス(おぞましいミステリー小説)だと評判だ。

■夢のマイホームを手に入れたはずが…

 物語の主人公、長野県で暮らすスポーツインストラクターの清沢賢二は、日常的な厳しい寒さに不満を抱いていた。寒がりな妻・ひとみとかわいい愛娘に暖かく暮らせる家を与えてあげたい…。そう考えた賢二はハウスメーカー「HAホーム」が売っていた、“まほうの家”を購入。1台のエアコンで家中が暖かくなる“まほうの家”は、家族の幸せを紡いでいく場所になるはずだった。だが、実際にはまほうの家に住み始めた途端、賢二たち家族の周りでは不可解な出来事が次々に起こるようになる。

 物語は、ある日賢二のパソコン宛に1枚の写真が届いたことを機に、一気にスリリングな展開に。差出人は賢二の不倫相手であった友梨恵の知り合い・麗美。麗美は友梨恵に異常な執着心を示していた人物だ。写真は、賢二と友梨恵の密会をとらえたものだった。焦った2人は話し合い、友梨恵は麗美の狙いを探ることになったが、それ以降友梨恵との連絡はなぜか途絶えてしまう…。

 そんな折に、まほうの家を売っていたHAホームの従業員・甘利が何者かによって殺害されてしまい、本当の恐怖はいよいよここから幕を開けていく。

 和室の角を見つめながら笑う娘、家の中で禍々しいものを目撃したと訴える友人、娘の瞳に映る恐ろしい影…。それらが物語っている事実は、ただひとつ。“この家には何かがいる”ということ。

 その何かの正体は「ホラー」という単純な枠には収まりきらないほど、おぞましい。まほうの家には本当に巨大な悪魔が住んでいたのだ。

■幸福と絶望は紙一重?

 甘い書籍名とは真逆な印象の絶望感漂う表紙が目を引く本作は、第13回小説現代長編新人賞受賞作。手に汗握るストーリー展開に、選考委員は全員戦慄したという。家族の幸せを願って購入したマイホームという“一番安らげるはずの居場所”が、おぞましい場所に変貌していく恐怖が、背筋をゾクリとさせるのだ。

 理想の家、理想の家族、理想の未来――私たちはそんなたくさんの理想を心に秘めながら生きている。それは一見、明るい希望のように見えるが、ひょんなことがきっかけで絶望を呼び込む種にもなってしまうのではないだろうか。幸福と絶望はいつも対極として考えられているが、実は隣り合っているのかもしれない。そのため、幸福は絶望に、理想は執着に、未来は妄想に変わってしまうこともあるだろう。幸福と絶望の境界線はあやふやであるからこそ、一度境界線を越えてしまうと、人は人でいられないほどの悪意を抱えてしまうのだ。本作は、そんな人間の脆さや心の闇を見事にとらえて表現している作品だ。

 本書318ページ以降、続々と明らかになる衝撃の真実は圧巻。読者は思わず息を止めてしまうはずだ。ラストの1行までもが、こんなに悲しくおぞましい物語は他にはない。

文=古川諭香