「今月のプラチナ本」は、寺地はるな『夜が暗いとはかぎらない』

今月のプラチナ本

2019/6/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『夜が暗いとはかぎらない』

●あらすじ●

舞台は大阪市近郊の暁町にある、「あかつきマーケット」。閉店が決まっているにもかかわらず、マスコットキャラクターのあかつきんが突然失踪してしまう。かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているらしい。次第に「しっぽを掴むと幸せになれる」という噂まで流れ始め……。表題作「夜が暗いとはかぎらない」など、暁町で暮らす人々のささやかな日常を描いた、13作からなる連作短編集。

てらち・はるな●1977年、佐賀県生まれ、大阪府在住。2014年、『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。そのほかの著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』など。

『夜が暗いとはかぎらない』書影

寺地はるな
ポプラ社 1600円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

芦田さんは、不幸せやったんですか?

「あかつきん」の中の人の物語と、あかつきんとすれ違う人々のワンシーンを描いた13の掌編。大事件は起きない、だが平凡な人生の中に、どれほどの悲しみや後悔、安らぎや希望が織り込まれていることか、著者はていねいに掬い取って見せてくれる。「一色で塗りつぶせるような単純な人間なんかいない(中略)あらゆる色が、ひとりの人間のなかに存在しているのだ」。人生を「幸せ」か「不幸せ」の2色で判断しない。無数の色にまみれ、あがき続けるわれわれの上に、夜が来て朝が来る。

関口靖彦 本誌編集長。コンクリートむき出しの土間に生鮮食品店が立ち並ぶマーケット、うちの近所でもピカピカのコンビニに変わってしまいました。

 

忘れがちな大切なことを思い出す本

どんなに気の合う人でも、考え方がまったく同じ人なんていない。人間はみんな違うのだから当たり前なのだけど、忘れがちで、その違いに勝手に傷つくこともある。見えている景色、感じている空気、自分はダメだと思っても、隣の人はよいと思っていたなんてことだってある。そんなほっとできる当たり前の多様さを、やさしい人たちの物語にして送り届けてくれたのが本書だ。個人的には「バビルサの船出」が心に残った。じいちゃんの生きざまはかっこいいし、和樹も大沢くんもいい奴だ!

鎌野静華 昼からサントリーホールでオーケストラコンサートを堪能し、その後ベトナム料理に舌鼓というすばらしき休日を過ごす。仕事に戻りたくない……。

 

当たり前のことを強く丁寧につなぐ

読むたびに違う言葉が胸に刻まれるのだろうなと思った。異なる短編に登場する人物同士のつながりがさりげない描写で明かされ、その積み重ねが誰かのたった一つの人生を形作ってゆく。その奥行きが、愛おしくて切ない。物語が折り重なるたびに、登場人物それぞれが歩む人生は自分のものでもあったかもしれないという気がしてしまって、深い連帯を感じてしまう。劇的な変化ではなく、強く〝私〟と人生を結んでくれる。そんな豊かさのある小説だった。個人的には「青いハワイ」推し。

川戸崇央 最近だと北尾トロさん推薦の歴史小説『始祖鳥記』(飯嶋和一)と鹿子裕文さんが〝宅老所〟を描いたエッセイ『へろへろ』もとてもよかった!

 

「あかつきん」が効いてくる

ひとつひとつの章は、いつも読み慣れた〝短編〟より短い。前章から徐々に町全体の人々がつながっていく素敵なタイトルの13の物語は、軽快な関西弁が響きながら、前向きな気づきと、わずかな成長の言葉でどれも締められる。「あがりがないすごろくのよう」に日々を生きることに対し、優しい目線で語りかけてくれているような身近な距離感のお話のなか、ところどころ出てくる「あかつきん」が、笑いと記憶も誘う。読後、自分の町を思い出し、無性に懐かしいあの人に会いたくなった。

村井有紀子 仲良しのマネージャーさんと昨年京都出張の際に一緒に鈴虫寺にお守りをもらいに行ったことを思い出す。我がお願いそろそろ叶いますように〜!

 

明るさも暗さも美化しない

誰でも何かしらの悩みを抱えて生きている。書いてみるとあまりにも当然ながら、実感としてはよくわからないこのことが、この連作を読むとちょっとわかる(気がする)。ちゃんとした人もちょっと困った人も、それぞれ暗闇を抱えていて、それが少しずつ明るくなる13編。しかし寺地さんはそんな救いを描きつつも「明るいことに良い意味も、暗いことに悪い意味も、含まれていない」と書く。人生の昼夜を等しく見つめる透徹したまなざしに、救われるような、少しぞくりとするような。

西條弓子 「ジョギングをすると人生が変わる」という説に期待して夜ランはじめた途端、携帯が壊れ、サイフがどこかいきました。何かは変わり始めたようです。

 

生きる私たちのための物語

300ページ強の中に13もの物語が詰まっているのに、老若男女どの人物も奥行きがあってくっきりと浮かびあがってくる。それはきっと、出てくる一人ひとりが自分の気持ちや状況を世間の言葉に当てはめられずに悩んでいるからだ。母親らしくしなければいけない。夫らしく、片思い中らしく、元同級生らしく。気づかないうちに植えつけられた思いこみを、「わたしたちの『好き』はわたしたちのもの」という言葉が打ち砕いたとき、自分の肩の力がふっと抜けたのがわかった。

三村遼子 近所のおいしいパン屋さん。平日11時開店なので一度しか行ったことがなく、連休中に希望を抱いていたのですが、暦通りずっとお休み。ですよね。

 

いつか自分も、誰かの一部になれるのだ

行ったり来たりを繰り返しながら、じっくり読んでしまった。暁町に暮らす人々の日常を切り取ったこの連作短編は、不思議なことに、読み進める毎に人の輪がつながっていくというよりも、人の縁が絡み合っていくように感じる。それは、寂れた町に暮らす人々の不安やしがらみ、今まで知らなかった知人の一面、切っても切れない関係性までもを、寺地さんが見事に描き出したから。出会った人を自分のうちに取り込んで、人間は変わっていく。そのかすかな兆しがとても心地よかった。

有田奈央 今月はお茶特集を担当。お茶時間の大切さを感じ、友人と自宅お茶会を開催。止まらない会話は最高のお茶受けでした。たまにはノンアルも良し。

 

みんな主人公、みんな脇役

歳を重ねるにつれて、自分は華やかな物語の主人公にはなれないのだなぁと、ある種諦めのようなものを抱いてきた。けれどここでは、あるところではただの通行人として描かれていた人物が、次の短編では主人公になったり、何気ない一言で誰かの人生をちょっぴり変えたり、そんなふうにして物語が繋がっていく。劇的な奇跡は起こらないけれど、だからこそ自分もいつか誰かを救えるのかもしれない。そう信じたくなる物語だった。自分に優しくできていないかも、と思ったときにぜひ。

井口和香 悪い男特集を担当したおかげで、審美眼がめきめきと鍛えられてきたような気が……! 本作に登場する葬儀屋の雪野礼司も、かなりの悪イイ男でした。

 

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