最後の一文を読めば、必ず恐怖する……。死んだ元カノの「日記」を巡る、サスペンス・スリラー

文芸・カルチャー

2019/6/18

『かげろう日記』(吉村達也/双葉社)

 日記というものは、しばしば、激しい感情を吐露する場になりうる。「誰の目にも触れない」という前提があるからこそ、なおのこと、本質的な想いが綴られる。しかし、そこに書かれてある恐ろしい感情を第三者が目にしてしまったら――。

『かげろう日記』(吉村達也/双葉社)は、そんな日記をモチーフにした、サスペンス・スリラーだ。著者である吉村達也さんは刑事を主人公にしたミステリーシリーズや、ホラー作品などを数多く手がける作家として知られている。2012年に死去されたものの、その著作に対するファンの支持はいまだ厚い。この『かげろう日記』は2003年に発表された作品だが、ファンからの声、そして編集者の熱望により新装版として復刊した。

 本作は会社員の町田輝樹のもとに1冊のノートが届いたことから幕を開ける。そこには1年前に別れた彼女・内藤茜の日記が綴られていた。しかし、茜は半年前に事件に巻き込まれて死んでいたはず。そんな彼女の日記が、どうしていまさら届いたのか。それを送りつけてきたのは、いったい誰なのか。輝樹は不穏さを感じながらも、ページを開いていく。

 そこに綴られていたのは、輝樹への執着とも言えるような文章だ。

“このまま、輝樹の人生から去るわけにはいきません”

 まるで怨念の塊のような一文が、延々と連なっている。それを読んだ瞬間、輝樹と同様に、読者もきっとたじろぐだろう。誰にも読まれるはずのない日記だからこそ、そこに綴られているのはまごうことなき本心。それがこんなにも執着心にまみれていたら……。幽霊や妖怪といった怪異よりも、この人間の欲望がなによりも恐ろしいと感じさせられる。

 しかし、読み進めていくと、物語は思いがけない方向へと転がっていく。日記は、茜の死後も書き続けられていたのだ。いったい誰がそんな悪趣味なことを? そこから輝樹は、茜の日記を乗っ取った犯人を捜そうとする。それが本当の恐怖の幕開けとは知らずに。

 物語の真相は実に恐ろしい。ただし、それで終わるわけではない。本当の恐怖は、この小説の「最後の一文」を読んだときに訪れる。ミステリーとホラーの両軸で活躍していた作家・吉村達也の真骨頂が、そこに表れている。正直、読まなければよかった、と後悔するほどだった。

 もうすぐ暑い季節がやってくる。寝苦しい夜には、恐怖で涼を感じようとする人も多いだろう。そんなときにはうってつけの一作だ。

文=五十嵐 大