かたかたと鳴る窓の外にいるものは? 俳優・佐野史郎が手がけた怪談えほん、『まどのそと』が怖すぎる!

文芸・カルチャー

2019/7/13

『まどのそと』(佐野史郎:作・ハダタカヒト:絵・東雅夫:編/岩崎書店)

 近年、「怖い絵本」の人気が高まっている。ブームの火付け役となったのは、2011年に刊行がスタートした岩崎書店の〈怪談えほん〉シリーズだ。宮部みゆき、皆川博子、京極夏彦、恒川光太郎、加門七海、恩田陸、岩井志麻子、小野不由美、綾辻行人、と当代のベストセラー作家を執筆陣に迎えたこのシリーズは、怪談を絵本の形で語るという新しいジャンルを確立し、大ヒットを記録した。なかでも宮部みゆき+吉田尚令の『悪い本』、京極夏彦+町田尚子の『いるの いないの』の2冊は、大人も悲鳴をあげる“最恐”絵本として、たびたびメディアに取り上げられている。

 そして2019年夏、ファン待望の〈怪談えほん〉第3期の刊行がスタートする。

 第1弾『まどのそと』(佐野史郎:作・ハダタカヒト:絵・東雅夫:編/岩崎書店)を手がけたのは、俳優の佐野史郎氏。「冬彦さん」で一世を風靡し、「限界団地」など多くの映画・ドラマに出演する佐野氏は、文学にも造詣が深いことで知られている。小泉八雲作品の朗読をライフワークとする佐野氏は、新スタートする〈怪談えほん〉シリーズの著者として、名実ともにぴったりの人選だと言えるだろう。

「かた かた かた」と、窓の鳴る音がする。男の子がカーテンを開けてみるが、庭の木の葉は揺れていない。それでも聞こえる「かた かた かた」。地震だろうか。しかし天井を見上げてみても、電球はまったく揺れていない。男の子は布団に入って目を閉じるが、窓の音が気になって眠れない。この音はどこからくるのだろう。そっと布団を抜け出して、再びカーテンを開けてみた彼が、窓の外に見たものとは…。

 かたかたという異音が入りこんでくる。『まどのそと』のストーリーは極めてシンプルなものだ。それなのにページをめくっていると、言いようのない不安に襲われるのはなぜだろうか。

「かた かた かた」というリフレインがまず連想させるのは、地震や台風などの天変地異だろう。自然災害の多い国に生まれた私たちにとって、どこからともなく聞こえてくる振動音は、危険を感じずにはいられないものだ。

 しかし『まどのそと』で描かれている異音は、そうした直接的な原因が明かされず、最後まで正体がはっきりしない。すべての解釈は読者に委ねられている。

 その余白が、読者の想像力を掻き立てる。「かた かた かた」という呪文のようなフレーズが積み重ねられるうちに、わたしたちはやがて自分の中にある怖いもの、不気味なものをいくつも思い浮かべてしまうことになるのだ。

 そんな怖さを2倍にも3倍にもしているのが、緻密なタッチで、ほの暗い世界を描き出すハダタカヒト氏の絵である。たとえば男の子の父親が寝転がってテレビを見ているシーンでは、テレビ画面に破れた新聞紙が張りつき、火山噴火のニュースを伝えている。しかもよく見ると寝転んでいるのは…。

 見る者の不安を呼び覚ますハダ氏の画風と、佐野氏の文章のコンビネーションは絶妙。たとえば静かでまがまがしい余韻に満ちたラストは、このタッグでなければ表現できなかったものだろう。

『まどのそと』は、読む者の内側に入りこみ、見慣れた世界にぐらぐらと揺さぶりをかける危険な作品だ。バラエティに富んだ〈怪談えほん〉シリーズにおいても屈指の異色作、そしてトップクラスの怖さを誇る1冊なので、子どもはもちろん大人にも手に取ってみていただきたい。さて、あなたが窓の外に見るのは、一体何だろう?

文=朝宮運河