失った恋心を埋めてくれるのはおいしい食べ物! リアルに使える失恋グルメ本

マンガ

更新日:2019/7/12

『失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』 (木丸 みさき/KADOKAWA)

 失恋したとき、「食べる」ことでそのストレスを発散する人は多いだろう。その方法にも2パターンあって、ひとつは、食べるものの内容はともかく、とにかく量を食べること。そしてもうひとつは、質の良いおいしいものを食べること。前者は破壊衝動をいっとき満足させてくれるが、後悔も大きい。満足度が高く、前向きな気持ちになるのはやはり後者だと思う。

 そんな「失恋したときに食べたいおいしいもの」に特化したグルメガイドが『失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編』(木丸みさき/KADOKAWA)だ。本書は、関西ウォーカーで2015~2017年に連載されていた1話完結の2Pマンガをまとめたもので、実際に存在するお店の紹介とともに、さまざまな“失恋”の一場面を描いたショートストーリーが展開されている。

 冒頭では、この企画が立ち上がった経緯が数ページのマンガで語られているのだが、そこにあった「(企画を進めるにあたって)『食べ物』や『食べること』を大切にしたいのです」という関西ウォーカー編集長のひとことが、本書の性格をよく表しているだろう。

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 挙げられている店は、高級店ではなく気軽にふらりと立ち寄れる店ばかり。たとえば京都では、離婚した孫娘のために祖父母が注文する助六寿司や、負の失恋スパイラルで食欲がなくても喉を通る甘酸っぱい素朴なアップルパイ。大阪では、身勝手な恋人に電話で別れを告げたあとの持ち帰り餃子や、失恋して落ち込んだ友達にごちそうするねぎ焼きなど、失恋したときに限らず味わってみたいものばかり。実用的な関西のローカルグルメガイドとしても使える一書なのだ。

 ちなみに私も「失恋めし」にありつくべく、実際に紹介されていた店を訪れてみた。その日はちょうど、付き合ったばかりの恋人にLINEの既読スルーをされてモヤモヤしていた。決定的な失恋というほどでもないが既読スルーのまま2日経てば「ああ、終わるのかな」と思ってしまうのが乙女心というものだろう。そんな気持ちのまま、本書の第1話に登場する今井食堂でサバ煮定食を食べてみた。

 「サバ煮か、地味やな…」と正直思っていたのだが、これがなんと、本当に「えっ!?」という驚きがあるくらいにおいしかった。その意外な驚きと嬉しさが、心のモヤモヤを払ってくれたように思う。おいしい食べ物は、心をどこか別の場所に連れて行ってくれる。それは、良書を読んだときも同じだ。結局、その日の夜には何事もなかったかのように彼から連絡があり、「まあいいか、今度あの店のサバ煮教えてあげよう」というくらいには穏やかな気持ちになれていた。

 本書で紹介されている店は全部で59店。失恋エピソードはしんみりするだけではなく、関西ノリのくすっと笑えるオチなどもあるほか、短いストーリーの中に、店の雰囲気や空気感までも再現されている。59回も失恋することはそうそうないと思うが、ふだんがんばっている自分へのちょっとした「食べる」ご褒美を考えるときにも持っておいて損はない一書だろう。

文=本宮丈子